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ドイツ時計散歩① ドレスデン

 

ドイツ時計散歩

ドレスデン

Dresden

 

ゼンパーオパー

写真はツヴィンガー宮殿の隣にあるドレスデン・ザクセン州立歌劇場(通称ゼンパーオパー)前の広場から大聖堂(左の建物)とドレスデン王宮(右の建物)を撮影したもの。広場中央には19世紀後半のザクセン王であるヨハンの騎馬像が王宮を見つめるように立てられている。ちなみにエルベ川は聖堂正面(写真左端)の木々が茂っている辺りに流れている

 

ザクセン王国の首都である“ドレスデン”。芸術の香り高きかつての美しい町並みは、第2次世界大戦の空襲によって破壊されたものの、長い年月をかけてその建物の多くが再建された。そんなドレスデンの旧市街を取材に先立ってぶらりと散歩してみた。

 

写真①/プロテスタントの教会として1743年に建設されたフラウエン教会。戦争によって破壊されたほかの歴史的建造物は旧東ドイツ時代においても少しずつ再建されたが、このフラウエン教会だけは、ベルリンの壁崩壊後の復興までまったく手付かず状態で瓦礫のまま放置されていた。これは社会主義国家がプロテスタント教会を必要としなかったためではないかといわれている


 

ドイツ独特の様式美が生み出す
ネオバロック建築の妙

 

 旧市街は、ドレスデン中央駅前からトラム(路面電車)に乗って約10分のところにある。“エルベの真珠”と称されるように、町の中心部を流れるエルベ川沿いには、バロック建築の大聖堂やドレスデン王宮が建ち並ぶ。なかでもエルベ川を境に旧市街と新市街を結ぶアウグストゥス橋からの景観はほんとうに美しい。
 
 実は、訪れる少し前にドイツ北東部が豪雨に見舞われ、このエルベ川も各地で氾濫し約4万人に避難勧告が出されたというニュースが日本でも報じられた。そのため内心かなり心配していたのだが、すでに川も穏やかで、おまけに日射しまで出てくれたおかげで絶好の散歩日和。日本と違い湿度が低いためか、光のコントラストが強く、より町並みの美しさが際立って見えた。
 
 さて、アウグストゥス橋から見ると正面に大聖堂、そしてその後ろにドレスデン王宮が建つ。その王宮と大聖堂の間を通るアウグストゥス通りに沿って建つ王宮の外壁には102mもの長さのタイル壁画(写真③)が続く。これは1876年に歴代君主を描いた“選帝侯たちの行進”で、それが経年によって風化してきたために、今度は2万5000枚のマイセン焼きのタイル画を使って同じ絵を1907年に再現したというものだ。第2次大戦時の2度にわたる激しい空爆によって城は焼け崩れたもののこの壁画だけは残ったというから驚かされる。この城壁のちょうど裏手側にあたるのが美しいアーチ形支柱が並ぶ回廊(写真②)と王宮の中庭。各支柱の上にはザクセン領諸家の紋章が飾られている。
 
 壁画のあるアウグストゥス通りを先に進むと視界の広がる大きな広場が出現する。そして、そのほぼ中央にそびえ建つのがフラウエン教会(写真①)だ。おそらくご存じの方も多いのではないだろうか。この建物も空爆で跡形もなく瓦礫と化し2005年に再建されたものだが、その再建のされかたがほかの歴史的な建物とはちょっと違う。“世界最大のパズル”と形容されたように、それは破壊された建物の約30万個もの破片を可能な限り使って再建するというものだった。

 

アーチ形支柱が並ぶ回廊

写真②
ドレスデン王宮外壁の102mもの長さのタイル壁画

写真③

 

 再建の手法もさることながらそれにかかる膨大な費用の資金集めも実にユニークだった。なかには瓦礫の一部で小さな石をはめ込んだ寄付用の腕時計も公式に売られ、高額にもかかわらず多くのドレスデン市民が購入したという。総工費の1億3000万ユーロの8割近くが寄付によって賄えたため予定よりも1年早く完成した。まさに戦後復興のシンボル的存在なのである。
 
 さて、ドレスデンで第1の観光名所といえばツヴィンガー宮殿。“ツヴィンガー”とは内濠と外濠の間の広場を指す言葉で、宮殿自体は1709年から約23年間かけて建造された。ドイツバロック建築の傑作と称される多数の彫刻で飾られた美しい建物が四方を囲む。現在は博物館として四つのテーマから構成されており、今回は時間があまりなかったため、時計を数多く展示している〝数学・物理サロン〟のみを見学。当時、恐らく最高の技術水準を誇ったであろう工具や学術的機器のコレクションは圧巻だった。貴重な時計のコレクションを中心とした展示フロアは時間の配分を失敗し、ゆっくり見られず若干消化不良。また必ず再訪しようと心に決めつつ宮殿を後にしたのだった。

 

ツヴィンガー宮殿

ツヴィンガー宮殿の入り口を入ると広大な敷地の広場が現れる。訪れた日がちょうど日曜日だったこともあって多くの観光客が訪れていた。この広場はドイツバロック建築の美しい建物によって囲まれて、かつては様々な催し物が開かれていた場所だ。その宮殿入り口の反対側に位置する建物(写真)の中央左側に数学・物理サロンがある
数学・物理サロンの展示室

数学・物理サロンの展示室。宮殿を利用しているため天井が高く外からは陽光が降り注ぐなど明るく開放的
アンドレアス・ゲルトナーの世界時計

1690年にドレスデンで製作されたアンドレアス・ゲルトナーの世界時計。360都市の時間が小さな文字盤で示されるというもの。中央の大きな時計に連動して動くごく簡単な仕組みのようだが見た目のインパクトは強烈
天体時計

約5年もの歳月をかけて1568年に完成した天体時計。七つの惑星の動きをそれぞれの文字盤で表示する。1日を23時間56分で1周する天球を上部に備える
世界最古の5分式デジタル時計

ゼンパー歌劇場にある世界最古の5分式デジタル時計を再現した1/10スケールのミニチュア版。1896年に製造された

 

グランドコンプリケーションNo.42500

1902年に製作された懐中時計、グランドコンプリケーションNo.42500。2013年、A.ランゲ&ゾーネはこれをモチーフにした腕時計を6本のみ製作

2階にある天体望遠鏡などの展示スペース。一角には子午線が引かれており、この場所では1784年からドレスデンの標準時を計測していたという。営業時間10:00〜18:00、入館料は6ユーロ


 

菊地 吉正 – KIKUCHI Yoshimasa

 
時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」、近年では女性向けウオッチマガジン「ワッタイム」と、時計関連の雑誌を次々に生み出す。また、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のプロデューサーとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。GERMAN WATCH.jp編集長。

2018.04.01 UPDATE

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