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ラング&ハイネ 創業者インタビュー

マルコ・ラング
ラング&ハイネ創業者であるマルコ・ラング氏

 

LANG & HEYNE

ラング&ハイネ

 

マルコ・ラング氏インタビュー
「長年のアイディアを実現するのは
このムーヴメントしかないと感じました」


 
 ザクセン州の首都ドレスデンに工房を構え、往時の宮廷時計の伝統を受け継ぎ、徹底したハンドメイドにこだわる独立系ブランド、ラング&ハイネ。その創業者にしてAHCI(通称アカデミー)のメンバーでもあるマルコ・ラング氏が来日を果たした。目的はブランド初となるトゥールビヨンモデル、アントンのプロモーションだ。
 
 新作アントンについては、すでに発表時にも紹介しているが、改めてご本人から新作の魅力や開発におけるこだわりを聞いた。
 
 
————————いま振り返ってみると、新作のトゥールビヨンモデルまでを見越して前作のゲオルクが製作されたかのようにも思えるのですが、実際のところどうだったんでしょうか。
 
「ゲオルクに搭載するキャリバーⅧは、一般的な角形ムーヴメントは大きな受けで歯車を固定しているのに対して、一つひとつの歯車をステンレススチール製のコックとネジで地板に固定しています。これは、以前よりユーザーから要望の多かった“オープンワーク化”という仕様を追求して生まれたアイディアだったのです。開発には自分ひとりの考えを反映するのではなく、スタッフみんなの意見を取り入れて、非常に独創的な意匠に仕上げることができたのです。正直、完成したときには私自身も驚きました(笑)。そして、いつかは発表したいと長年アイディアを温めてきたトゥールビヨンは、こういった独創的なムーヴメントにこそふさわしいと考えたのです。実は、2017年に発表した角形モデルのゲオルク製作と同時に、実はトゥールビヨンモデルも準備をしていました。例えば、ゲオルクのスモールセコンドは、文字盤の半分近くを占めるほど大きい径となっていますが、これはトゥールビヨンを納めることも想定しての大きさです」
 
アントンとゲオルク

アントンとゲオルクのムーヴメント

左が新作アントンとその搭載ムーヴメントであるCal.Ⅸ。右がそのベースともなったゲオルクとCal.Ⅷである

 
 
————————長年アイディアを温めてたと言われたトゥールビヨンを開発するにあたってこだわった点はなんですか。
 
「ドイツでは、かつてのグラスヒュッテ・ドイツ時計学校で教授を務めたアルフレッド・ヘルウィッグが完成させたフライングトゥールビヨンが一般的です。このフライングトゥールビヨンで、個性を決めるのがケージのデザインとなります。キャリバーⅨでは、琴座型と呼ばれる独特なケージを採用しています。またヒゲゼンマイ自体はカール・ハース社製ですが、ブレゲヒゲゼンマイに改めるなど、細部まで手を加えています」
 
トゥールビヨン

ドイツのカール・ハース社製のヒゲゼンマイは、ラング&ハイネで手を加えブレゲヒゲ仕様に改めている

 
 
————————それでは、開発にあたって苦労された点はなんですか。
 
「トゥールビヨンではガンギ車など通常より小さくしなければならず、それには苦労しましたね。またトゥールビヨンを2点で支えるため、可能な限り軽量にしなければなりませんでした。通常、ラング&ハイネのムーヴメントではテンプ受けにダイヤモンドの飾り石を用いているのですが、高さ方向と重さの制約が厳しく取り付けることができなかったため、新たに耐震装置も開発しました」
 
 
————————細部までこだわられているだけに、製作には多くの時間が掛かりそうですね。
 
「そうなんです。部品も可能な限り自社で作っているため、いまは年間50本を生産するのが限界です。ただ、実はドイツのムーヴメントメーカーのUWD社と統合することになり、いままで12人だった時計師が22人に増えました。2016年にジンから発表されたドイツメイドの時計“マイスターブンド”というモデルをご存じでしょうか。実は、このときムーヴメントを製造したのがこのUWD社で、非常に高い技術力を持つムーヴメントメーカーです。“品質第一”という考えは、もちろんこれからも変えるつもりはありませんが、この統合によっていままでの4倍の200本まで生産が拡大できそうです」
 
 
————————ラング&ハイネの時計には、すべてザクセン州の選帝侯・侯爵の名が冠されていますが、新作に“アントン”の名を与えた理由はあるのですか。
 
「ドレスデンのアウグスト通りに沿って建つ王宮外壁には歴代君主が描かれています。モデル名は、時計のイメージに合った君主の名を選択しているのですが、実は歴代君主の多くが“フリードリッヒ”という名なんです。フリードリッヒはすでに“アウグスト”、“Ⅱ世”、“Ⅲ世”とモデル名に採用しており、これ以上増えるとよくわからなくなってしまうので、新作はフリードリッヒ以外から選んだというのもあります(笑)。アントンは、ザクセン王国第2代国王(在位1827年-36年)で、善政を敷き、国民から“der Gütige(温厚王)”と親しまれました人物です」
 
アウグスト通りの壁画

約2万5000枚のマイセン焼きのタイル画を使って描かれた“選帝侯たちの行進”(写真:神戸シュン)

 
 
————————最後に、ラング&ハイネの今後の展望について聞いてみた。
 
「これまで、ラング&ハイネではほぼ毎年のように新作を発表してきています。ただ、義務のように追い立てられて新作を発表しているわけではありません。今後も自分のペースで、納得のいくものを作り続けたいですね」
 
 伝統的なドレスデンスタイルを受け継ぐラング&ハイネだが、それは往時のドレスデンの時計を模造することでは決してない。そのことを証明しているのが、独創的な角形ムーヴメントを持つゲオルクであり、新作のアントンだろう。また高い芸術性を追求しながらも、実用性という点においても細かい配慮が見られる。例えば、アントンのケースは優れた装着感を実現するため、わずかにカーブさせているし、巻き上げを行いやすいようコレクションでは一貫して大振りなリューズを採用(さらに耐久性へ配慮してガードも装備)している。
 
マルコ・ラング2

 道具としても、そして芸術としても高い完成度を実現したのが、ラング&ハイネの時計なのだ。
(取材・文◎堀内大輔/撮影◎笠井修)
 
 

INFORMATION


モデル名 アントン
ケース素材 18金ローズゴールド
ベルト素材 レザーベルト
サイズ 40×32㎜
防水性 3気圧防水
ムーヴメント 手巻き(Cal.Ⅸ、毎時1万8000振動、55時間パワーリザーブ)
税込み価格 1380万円(税別予価)

アントンの正面

 
 

問い合わせ:ノーブルスタイリング TEL.03-6277-1600
noblestyling.com

 

2018.09.11 UPDATE