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ドイツ時計「クドケ」が生み出すスケルトンウオッチの妙

クドケのムーヴ1

 

KUDOKE

クドケ

 


美しいエングレーブが奏でる
スケルトンウオッチの妙


 
 機械式腕時計の最大の魅力。それは心臓の鼓動のごとく一定のリズムで動き続けるムーヴメントであろうか。しかも、歯車が複雑に絡み合い、いかにも機械然たる様は、男の琴線に触れる要素を多分に秘めている。しかしながら、元来文字盤に覆われているため腕に着けた状態でそれを楽しむことはできない。これを文字盤側からでも楽しめるようにと考案されたのがスケルトンウオッチだ。クドケはドイツブランドのなかでもこのスケルトンウオッチを得意とする。
 

ステファン・クドケ1
オーナーのステファン・クドケ氏は1978年にドイツ・フランクフルト(オーダー)に生まれる。グラスヒュッテの時計学校を主席で卒業。グラスヒュッテ・オリジナルでは複雑時計やプロトタイプなどの開発に携わる
ステファン・クドケ2
デザインの考案からその図案のスケッチも彼自身が手書きで作成する。これを基にいくつもの工程を経て具現化されていく

 
ブラックビューティー

写真❶ 機械式ゆえの醍醐味を常に堪能できるスケルトンウオッチ。時計師であると同時に彫金師でもある彼の作品は、腕時計というより美術工芸品に近い。写真はクドケのなかでもいちばんの人気ライン「ブラックビューティー」。ブラックロジウムメッキされたプレートとイエローゴールドの歯車のコントラストがひと際目を引く。SS(42mm径)。5気圧防水。手巻き(ユニタス6498)。88万円

 
 クドケの最大の特徴はすべてのコレクションが手作業で仕上げられる点だ。デザインから図案のスケッチ、パーツの切り出しからムーヴメントの組み上げに至るまで、その一切を手作業で行う。そのためひとつの腕時計を仕上げるためには数週間を要するという。
 
 スケルトンウオッチのベースは、懐中時計用の手巻きムーヴメントであるユニタス6498。これを分解し、なんとワイヤーカット放電加工機ではなく、自らが糸鋸で地板に一つひとつ錐で穴を開けて切り抜いていく(写真❷)というからなんと古典的なことか。そのため最低1日、複雑であれば2日はかかるという。機械を使えば数時間で終わるところを、あえて時間と手間のかかる手法を採用しているのだ。
 
 糸鋸で肉抜きされたムーヴメントのプレートは、次にエッジの面取り作業(写真❸)に移る。まずダイヤモンドカッターで削り、荒いゴム砥石で磨いた後、3ミクロン、続いては1ミクロンのゴム砥石と、同じ面に対して4回ほど作業を繰り返して丁寧にならしていく。そうして美しい面に仕上げていくというわけだ。
 
プレートの肉抜き作業

写真❷ プレートの肉抜き作業は、機械を使わずにすべて糸鋸を使って慎重に切り抜いていく。ひとつ抜くのに最低1日、多いときは2日かかるというから時間と手間のかかる作業だ



 
面取りの作業

(左)写真❸ 糸鋸で抜いた地板の角を丁寧に落としていく面取りの作業。まずリューターの先に付けたゴム砥石で磨く。ひとつの面に対して4回作業を行うという入念さだ(右)受けに彫金を施す作業。ムーヴメントの小さなパーツを台座ごと細かく動かしながら慎重に彫金を施す。ただ、そこは彫金師でもあるクドケ氏。その作業はすこぶる早くて滑らかなのに驚かされる

 
 そして、クドケ氏の手作業へのこだわりはなんとメッキ処理にまで及ぶ。彼のアトリエには立派なメッキの機械が据え付けられているのはそのためだ。独立時計師といえどメッキ処理までも自らが行うというのはあまり聞いたことがない。しかし、その理由は単純だった。上に掲載した彼の手がけた時計(写真❶)を見るとわかるが、場所によってメッキの色が違う。つまり1色ではないのだ。手間がかかるため作業を受けてくれる業者がないことから自分でやっていると言うのである。しかも「ピンクゴールドメッキはあまり必要ないが、イエローゴールドとロジウムは電圧の微妙な調整が必要になる」と言うぐらいにその色合いにもかなりこだわる。そんなやりとりを業者とするのであれば、自分でやったほうが早いというのもわからなくはないのだが・・・。
 
ロジウムメッキ作業

針金の先端に部品を固定してメッキ槽に浸ける。特にイエローゴールドとロジウムメッキは、出したい色味を考えながら、電圧と浸ける時間を調整する



 
ロジウムメッキ作業2

受けやプレートだけでなく、歯車などのマイクロパーツにも自らがメッキを施す。左の2個が処置前、右がメッキ処理されたもの

 
ロジウムメッキ作業3

(左)メッキ処理が終わると、大胆に肉抜きされたプレートに彫金が施された受けを組み上げて図柄を作っていく(中)針も自製するクドケ。磨きながら成形したのち、最後にバーナーで表面に熱を加えて青焼き硬化処理が施される(右)歯車などのムーヴメントのパーツも一つひとつ組み上げられる

 
 彼は「手作業は私の哲学」とも豪語する。この言葉が単なる虚勢ではないことは、これまで見てきたプロセスからもわかるだろう。筆者は今年8月に初来日したクドケ氏にインタビューをさせていただいたが、その中で、手作業にこだわる理由についてこう語っていた。
 
「機械を使ったのではどこでも同じになってしまう。自分までそんなことしてもしょうがないって思います。自分はあくまでも独立時計師です。やっぱりほかにはできないことで誇れることと言ったら、自分にしかできない時計を自分の手で作ることだから」
 
 完成した時計はひとつとして同じものが存在しない。まさにこれこそが機械ではぜったい成し得ない手作業ならではの味わいであり、クドケのブランド・アイディンティティにほかならないのである。それにしても年産60〜70本。いまやバックオーダーを抱えるほどだと言うが、クドケ氏の頭の中には今以て生産性という考えは微塵もなさそうだ。
(文◎菊地吉正/写真◎神戸シュン)
 
 

独創性に富んだ個性豊かなコレクション

 

エイチアールワン

エイチアールワン

ローズゴールドメッキされたスケルトンのプレートがほどよく華やいだ雰囲気を醸試打している。青焼きされた針の美しいブルーとベルトの茶との相性も抜群だ。大人のオシャレ心を感じさせる作り。SS(42mm径)。5気圧防水。手巻き(ユニタス6498)。88万円

クドクトパス

クドクトパス

見てのとおりエングレーブにリアルなタコのモチーフをあしらった遊び心あふれるデザインが独特な存在感を示す。優れた彫金師でもあるステファン・クドケならではの真骨頂を発揮する作品。SS(42mm径)。5気圧防水。手巻き(ユニタス6498)。132万円

レクレーター

レクレーター

6時位置に時針、文字盤中央のセンター軸に分針と時分針を別々にセットする特徴的なレギュレーター機構を搭載。エングレーブだけでなく時計師としての技術力の高さを感じさせるモデルといえる。SS(42mm径)。5気圧防水。手巻き(ユニタス6498)。132万円

 
 

問い合わせ:シェルマン TEL.03-5568-1234
www.shellman-online.jp

 

2018.10.12 UPDATE

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