ドイツ時計散歩② グラスヒュッテ
ドイツ時計散歩
グラスヒュッテ
GLASHÜTTE
アドルフ・ランゲが興したドイツ時計産業の要衝“グラスヒュッテ”。最先端の時計製造技術を有する名だたる高級時計メーカーが立ち並ぶイメージとはうらはらに、その街は、かつて銀鉱山で栄えたという、四方を山々に囲まれた場所にひっそりとある。
グラスヒュッテを訪れたのは今回が2度目。1度目はもちろん本誌1号の取材のために出向いた昨年のことだ。前回のこのドイツ時計散歩で取り上げた“ドレスデン”は世界的にも有名な観光地のため訪れたことがある人も多いだろう。しかし、そのドレスデンからクルマで50分ぐらいの距離にあるここグラスュッテは、よっぽどの時計愛好家でなければ、まず来ることはないのではないか。それほど山深い場所にある小さな街である。
グラスヒュッテについては仕事柄、A.ランゲ&ゾーネやグラスヒュッテ・オリジナル、そしてノモスと、日本でもよく知られるドイツメーカーの本拠がある街として以前から知ってはいた。しかも、5分も歩かないところにそれらの建物が存在するということも話としては聞いてはいたが、日本の感覚からしてイマイチ想像できないでいた。それが実際に訪れてみて、その言葉そのものだったことにまず驚かされた。
次の写真をご覧いただきたい。これはいわゆるグラスヒュッテの駅前交差点の写真である。さすがに時計産業の街というだけあって、仕事中のためだろうか、日中はほとんど人の気配がない。そして、その中央を走る道路を境に左の建物がノモスだ。実はかつてのグラスヒュッテ駅の駅舎だった建物だというからスゴイ。日本ではぜったいに考えられないことである。その道路を挟んだ向かい側の交差点角に位置するのがA.ランゲ&ゾーネのかつての母屋(シュテムハウス)を復元した本社。現在の製造拠点は中央の道に沿ってさらに奥へと7〜8分歩けば右側に見えてくる。また、その後ろにあるモダンな建物がグラスヒュッテ・オリジナルである。つまり、実祭には5分どころではなかったのだ。しかも、この3社以外にもミューレ、ヴェンペ、チュチマ、ブルーノ・ゾンレー、ウニオン、ヘメス、そしてモリッツ・グロスマンとこの交差点を中心に計10メーカーが点在している。前号の本誌に掲載している配置図を参照してもらうとよりわかりやすいだろう。
その交差点を右折するとすぐ中央に見えてくるのがドイツ時計博物館(写真❶)。かつてのドイツ時計学校の校舎である。第2次世界大戦で一度は衰退した激動のグラスヒュッテ時計産業の歴史が時系列に展示されているのでとてもわかりやすい。ちなみにグッズのほか文献も販売されており、今回は日本ではなかなか手に入らない軍用時計の本を購入。
さて、この博物館横(左の道沿い)にアンティークショップ(写真❹❺)があるのをご存じだろうか。実は昨年、偶然見つけたもののクローズドで入れず悔しい思いをしたため、このショップへの取材は今回のグラスヒュッテ訪問の目的のひとつでもあった。しかも今回アポなしの突撃取材だったが快く応じてくれた。昨年この地にオープンしたとのこと。やたらと声がでかくザクセン訛りがきつい(通訳さん談)店主だったが、結構気さくでグラスヒュッテらしい品揃えもなかなか魅力だった(詳細は10月刊行のロービート6号に掲載)。当地へ訪問の際はぜひ訪れてもらいたい。
さて、グラスヒュッテの象徴のひとつとして忘れてはならないのが天文台(写真❻)である。かつてグラスヒュッテ時計産業の高い品質を支えるうえでなくてはならない存在だったが、第2次大戦後に東ドイツ圏となったことで状況は一変。その存在自体が忘れ去られ一度は朽ち果ててしまった。それをヴェンペが買い取り2006年に再建。現在はその建物のなかにはヴェンペの高級ラインの工房も併設されている。海抜410m、眼下にはグラスヒュッテの町並みを望み、その景観たるや実に美しく絵のようだ。クルマだと駅から10分もかからないぐらい。しかし、かなり勾配はきついので徒歩の場合はそれなりの覚悟が必要かもしれない。
今回、3日間の取材だったが、うれしいことにグラスヒュッテ駅から念願だった列車(写真❸)に乗ることができた。便利なクルマもいいが、ときには列車の車窓からその地域の人々や生活を垣間見るのもやっぱり良いものだ。
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