グラスヒュッテ・オリジナルの高精度ムーンフェイズ
GLASHÜTTE ORIGINAL
グラスヒュッテ・オリジナル
本命登場で第2幕スタート
精度と象徴の“エクセレンス”
2016年に発表されたグラスヒュッテ・オリジナルのベースムーヴメント、Cal.36。同社はこのムーヴメント開発にあたり、四つの原則を掲げたという。プレスリリースに従えば、“歩度および構造全体の極めて優れた安定性”にはじまり、“最高の精度”、“長いパワーリザーブ”、そして“時代を超えた美しさ”だ。
まず、ひとつめの安定性を確保するため、Cal.36を搭載するエクセレンスでは非常にユニークな方法が取られた。一般に時計のムーヴメントは機留めと呼ばれるネジ留め方式でケースに固定されるが、エクセレンスではムーヴメントの固定にバヨネットマウント方式を採用した。バヨネットマウントはカメラのレンズを本体に固定する際によく見られる構造で、ケースをムーヴメントに押し回すようにセットすることでムーヴメントとケースのツメが噛み合い固定される。ネジの分だけ部品が減り、加えてネジ留めよりも衝撃に強い優れた構造だ。また、ゼンマイの巻き上げが逆回転しないように通常、ツメ状のストッパーが香箱車の上の角穴車に配置されるが、Cal.36ではその役割を両方向巻き上げの減速ギアに持たせた。これも摩耗に弱い部品を廃止する、耐久性に配慮した合理的な設計だ。
精度への配慮はより一層入念だ。精度の要となるヒゲゼンマイには、温度変化と磁場の影響に強いシリコン製ヒゲゼンマイを採用。加えて、テンプには緩急針不要のフリースプラングを採用し、テンプのリムに歩度調整のために六角形のスクリューが四つ設けられた。さらにCal.36ではムーヴメントをケーシングした状態で24日間、6姿勢、3温度差での精度検査と調整が行われる。対してドイツクロノメーターの認定検査が5姿勢、15日間、3温度差の環境下で行われることからも一目瞭然。自社検定とはいえ、ドイツクロノメーターよりもはるかに厳格な品質検査をクリアしている。
また、Cal.36は100時間のパワーリザーブを備えるが、そのために香箱は新規設計された。具体的には香箱の直径を拡大し、香箱真を小さくすることで主ゼンマイの長さを延長するスペースを確保。さらにはきつく巻き上げても主ゼンマイが壊れないよう、ニヴァロックス社が開発した耐久性に優れた新素材“エリンフレックス”を主ゼンマイに採用。これにより巻き数を大幅に増やし、ワンバレルでありながら100時間ものロングパワーリザーブを実現している。
そして、美しさ。4分の3プレートやグラスヒュッテストライプ、青焼きしたネジなどグラスヒュッテの腕時計に典型的な装飾はもちろんだが、注目すべきは手巻き機構の輪列だ。ムーヴメント上部に意図的にレイアウトすることで、リューズを巻き上げる度に作動する様子を見ることができる。見た目だけでなく、メカニズムの美しさを見せるという配慮だ。
さらに2017年、Cal.36を搭載するエクセレンスに2枚のデイトデイスクの間の段差、そして、すき間を隠す間仕切りバーのない“パノラマデイト”を備えるバリエーションが投入された。パノラマデイトは1997年に発表された機構で、グラスヒュッテ・オリジナルを象徴するアイコンともなっていたものだ。
パノラマデイト20周年の節目に投入されたエクセレンスは同社のウオッチメイキングにおけるマイルストーンとなる傑作と言っても過言ではないだろう。(文◎佐藤杏輔)
VARIATION
2018.04.01 UPDATE