独立時計師“マルコ・ラング” のウオッチメイキング②
LANG & HEYNE
ラング&ハイネ
芸術性をも追求するドレスデンスタイル
前回は、独立時計師“マルコ・ラング”の人物像に迫った。今回は、彼が貫く “ザクセン時計芸術”とはいったいどのようなものなのかについて掘り下げたい。
19世紀のドイツ時計と言えば、アドルフ・ランゲがグラスヒュッテに時計産業を興し、優れた時計づくりに勤しんでいた時代。
それに対して同時期のドレスデンでは宮廷などの限られた顧客のために芸術性の高い時計が作られていた。彼が目指したのは、卓越した技術をもって優れた時計を作るということはもちろんだが、実はグラスヒュッテではなく、ドレスデンのかつての時計師たちのように、そこには時計師の個性を宿した高い芸術性をも求めるという、言わばドレスデンスタイルだったのである。
それを象徴するかのように、ラング&ハイネのすべてのコレクションには、ザクセンのかつての王や侯爵の名前が付けられている。歴史と伝統を重んずるマルコ・ラングのウオッチメイキングに対する矜持が、こんなところからも垣間見られるようだ。
それを象徴するかのように、ラング&ハイネのすべてのコレクションには、ザクセンのかつての王や侯爵の名前が付けられている。歴史と伝統を重んずるマルコ・ラングのウオッチメイキングに対する矜持が、こんなところからも垣間見られるようだ。

時計師として、常に納得のいくものだけを作ることにこだわるというマルコ・ラング氏

錫(すず)のプレート上でダイヤモンドパウダーを使い、ビスの頭を平らに研磨仕上げする様子。専門職人が1日に作れる数はわずか12本から15本。いかに手間のかかる作業かがわかるだろう

ムーヴメントのアンクルも念入りにポリッシュされ、パーツの加工・仕上げにも芸術作品としてのクオリティが優先される
ラング&ハイネでは針も自製する。複雑な造形を持つ通称ルイ15世針は、何と1本の金属棒から切り出され、手作業で立体的に成形されていく。ごまかしの効かない部分だけに、繊細にして最も神経を使う作業だ
そして、そのなかでも特筆すべきはムーヴメントの4分の3プレートとブリッジ、そして受けに、金メッキする前に施される「銀のしごき密着」という独特な仕上げだろう。18世紀に完成したというこの手法によって得られた表面のざらざらした質感は、金メッキ後にはほかにない独特の光沢感と上品な雰囲気をもたらし、ラング&ハイネのムーヴメントの美しさをより際立たせている。愛好家の多くはまさにこの古典的なムーヴメントに惹きつけられるという。

ムーヴメントのブリッジやプレートは満足のいく形になるまでCNCによるテスト切削が繰り返される。その後に手作業で彫りが入れられ、ポリッシュ、面取りが施される

「銀のしごき密着」とは、豚の毛のブラシによって微細な銀粉、ワイン結晶(酒石酸水素カリウム)、食塩からなる合成粉末を真鍮のプレートにしごきながら密着させ、革のようなざらざら感のある表面に仕上げる。これは18世紀に完成した手法だ
ドレスデンスタイルを受け継ぐラング&ハイネだが、それは往時のドレスデンの時計を模造することでは決してない。そのため、伝統的な製造技法を大切にしつつも、コンピューターで設計を行うCADや加工を数値で制御するCNCといった現代的な工作機械を駆使することで、現代だからこそ成し得る最髙の品質を追求している
また、ラング&ハイネは手作業にこだわるだけでなく、パーツの加工・仕上げにも芸術作品としてのクオリティを優先するという。そして、これらの作業に費やす時間は膨大だ。そのため年間生産数はわずか40本ほど。19世紀のドレスデンのごとく、限られた人だけが手にできる、この希少性もこのブランドに大きな価値をもたらしていることはいうまでもない。
(文◎菊地吉正)
問い合わせ:ノーブルスタイリング TEL.03-6277-1600
noblestyling.com
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2018.06.18 UPDATE