生粋のドイツ時計 モリッツ・グロスマン物語 第4回
MORITZ GROSSMANN
モリッツ・グロスマン
生粋のドイツ時計 モリッツ・グロスマン物語
第4回
シンプルにして完璧を目指すウオッチメイキング①
「設計、プロトタイプ製造、
そして工具製造まで」
今回は、ムーヴメントの完成までの工程で、まさに初期段階と言える開発・設計からプロトタイプの製作、そして工具製造までを見ていきたい。
ムーヴメントを自製するマニュファクチュールメーカーは、新しい時計を開発する際に、最も重要となるムーヴメントの設計にあたり当然コンピューターの3次元設計ソフト(CAD)を使う。もちろんモリッツ・グロスマンでも使われているのだが、同社では3次元設計ソフトを活用する前に、こだわっていることがあるという。それは、かつての時計師が皆そうであったように、まずはアイデアを具現化するために、そのアイデアスケッチや設計を時計師自らが手作業で行うということだ。それは熟練した時計師の専門知識と豊富な経験を尊重したいという考えからにほかならない。
新しい時計に搭載されるムーヴメントが、いくら優れたアイデアが盛り込まれたものであっても、メカニズムを完璧に機能させるものでなければならない。そして、そのためには技術的な要件をクリアすることはもちろん、さらに完成された時計として世に出すためには、技術的な部分とデザインを融合させるといった様々な要件もクリアしなければならない。つまりモリッツ・グロスマンは、今後のプロセスにおいて技術と設計を無理なく結びつかせるという意味でも、この手作業による最初の設計段階を最も重要視しているのである。
そして時計師が作ったこの図面は、コンピューターの3次元設計ソフトによってさらに精巧にしかも立体的に設計される。そしてこの詳細な設計図はプロトタイプ製造部門に手渡され、ムーヴメントのパーツの製造に取りかかる。ちなみに、すべてのパーツは最初にこの部門で自製されるというからスゴイ。
そして、これらのパーツを使って新たなムーヴメントのプロトタイプが手作業で組み上げられる。モリッツ・グロスマンでは、このプロトタイプを使って様々なモジュールが互いにスムーズに動くかどうかを念入りに検証しているというわけだ。もちろんこの間、時計師とプロトタイプ製造責任者との間では様々な意見交換がなされ、修正、検証を繰り返しながら完成度を高めていくことはいうまでもない。そして同時に、この段階においてすべてのパーツの設計図も作られる。
パーツすべての設計図が出来上がると、今度はそれらを製造するために必要とされる道具や機器類の準備に入る。必要とあらば道具類は、詳細な技術的デッサンを起こし、それを基に設計され、さらに自作される。開発の初期段階だけみても膨大な労力と時間が費やされるというわけだ。いかにこの設計段階がウオッチメイキングにおいて重要かをうかがい知ることができよう。
さて、次回は実際の生産ラインにおけるパーツの製造から仕上げまでを見ていきたい。
(文◎菊地吉正)
2018.08.29 UPDATE