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【実機レビュー】これが自動巻き? なんと振り子式を採用した革新的機構、その驚きの仕組みとは!?

ハマティックの革新的な自動巻きムーヴメント。中央が空洞になったラグビーボールのような形をした大きなパーツがあるのがわかるだろうか、これが左右に振れることでゼンマイを巻き上げる

 

MORITZ GROSSMANN

モリッツ・グロスマン

 

【実機レビュー】これが自動巻き?
なんと振り子式を採用した革新的機構、
その驚きの仕組みとは!?

 

革新的なメカニズムとメンテナンスを考えた設計

 
 2008年にドイツ・グラスヒュッテに設立したモリッツ・グロスマン。手作りされた美しい手巻きムーヴメントで愛好家に知られるが、同社初にして、一般的なローターの回転式ではなく振り子式の自動巻き機構を採用するかなり独創性に富んだキャリバー106.0を開発。それを搭載するハマティックのデリバリーが本格的に開始されたということで、今回あらためて実機を見させていただいた。
 
 3年の開発期間を経て完成したというこの自動巻き機構は、冒頭でも触れたように半円形のローターが回転するというものではなく、ラグビーボールの形をしたハンマー型のローターが左右両方向に振り子のごとく振れてゼンマイを巻き上げるというまったく新しいものだ。
 
 

ハンマー型ローターが左右に振れて巻き上げる

 

赤丸印の爪がハンマーの基部の下にある巻き上げ車と噛み合い、それを押し回すことにより中間車を介して香箱のゼンマイを巻き上げる

 
 その仕組みにはこうだ。まずラグビーボールの形をしたハンマー型ローターが、腕の動きによって左右に振れると、二つのラチェットレバー(切り替えレバー)にそれぞれある爪(上の写真の二つの赤丸印)がハンマーの基部の下にある2枚の巻き上げ車の一方と噛み合い、それを押し回すことにより中間車を介して香箱のゼンマイを巻き上げる。
 
 つまり、ハンマー型ローターが左に振れた場合は左側の巻き上げ車と爪が噛み合い、その歯車を押し出して最大で約13歯分左回転させる。右に振れるともう一方の右側の歯車と爪が噛み合い、右に回す。もちろん片方の爪と巻き上げ車が噛み合うと、もう一方は外れる。逆もまた同様だ。
 
 ただ、この開発には二つの問題があったという。ひとつ目はいかにして巻き上げ効率を高めるかという点だ。このキャリバー106.0は、常にどちらかの爪が巻き上げ車と噛み合う設計とすることで、切り替え時に起こりやすい不動作角のロスを限りなく少なくすることに成功。何とわずかに5度の振り幅でも効率の良い巻き上げを実現した。
 

ハンマーローターは、先端が銀杏型の中央のストッパーに当たることで止まる。それはハンマー自体に直接当たるのではなく、衝撃を吸収できるようにS字型に作られたバネ(赤丸印)で止まる仕組みになっている

 
 そして二つ目は、振り子式の場合は、左右方向に衝撃と負荷がかかるため、耐久性という点についてだ。そこで今回はS字型バネのようなパーツ(上の写真赤丸)を採用することによってストッパーは直接ハンマーアームには当たらないで済むうえ、それはショックアブソーバーのごとく衝撃をも緩和する役目を担う。衝撃によるダメージを極力軽減させるよく考えられた作りだ。
 
 そして、これらすべてのパーツは、メンテナンス性に配慮して後で交換できるような設計にしているとのこと。優れた巻き上げ効率を実現したばかりか、長く使うことを考えた設計という点も、ハマティックの大きなアドバンテージと言えるに違いない。
 
 

19世紀の懐中時計に倣い縫い針の様な細さを実現

 
 さて、このハマティックの自動巻きムーヴメントだが、ローター式にしなかったのは、ひと目でわかる独自性もあるが、1番にはグロスマンの売りでもある美しいムーヴメントをローターで覆い隠したくなかったということが最大の理由だったようだ。
 
 19世紀当時に倣い支柱構造を採用した洋銀製の地板には、しっかりと幅広のリブ模様、そして、そこにはブラウンバイオレットに焼き戻しされたビスによって留められた、18金ゴールド製のシャトンなど、グラスヒュッテ様式が再現されており、その仕上げの美しさは手巻きと同様に細部まで楽しめる。そればかりか振り子型ローターの独創的造形と相まって、見ていてまったく飽きさせないぐらいだ。
 
 また、ハマティックの魅力は何も革新的なムーヴメントだけではない。今回、既存コレクションにはない新しい針の造形もそのひとつだ。これはブランド名にもなっている伝説的な時計師、モリッツ・グロスマンが19世紀に作った当時の懐中時計の雰囲気を忠実に再現したものである。
 

19世紀に製作した懐中時計に倣い、極細の針だけでなく細身で縦長のローマ数字なども採用された。分針の最も細い部分は0.1㎜。さらに秒針は先端部分がわずか0.05㎜という細さ。まさに神技とも言える数値だ

 
 洋ナシ型の先端が美しい時針と、縫い針の様に極端に細い分針を見事に再現。しかも分針の最も細い部分は0.1㎜。さらに秒針は先端部分がわずか0.05㎜という細さを実現している。まさに神技とも言える数値だ。そのため針専門の職人が手作りで1日1本仕上げるのがやっとと言う。もちろん、最後に針は1本ずつ炎の上で焼き戻しされ、グロスマンを象徴するブラウンバイオレットカラーに仕上げられている。
 

Ref.MG-002302。K18RG(ケース径41 mm、ケース厚11.35 mm)。日常生活防水。自動巻き(Cal.106.0、毎時2万1600振動、約72時間パワーリザーブ)。605万円

 
 19世紀の古典設計にこだわりながらも、そのメカニズムは最新という、古典と革新がともに味わえるハマティック。価格は605万円とやはりおいそれと手を出せるレベルにはないが、それだけの金額を出しても満足できるほどの魅力は多分にあることも確かである。
 
 
文◎菊地吉正(編集部)
 
 

問い合わせ:モリッツ・グロスマン ブティック TEL.03-5615-8185
www.grossmann-uhren.com

 

2020.09.07 UPDATE