ドイツ時計、モリッツ・グロスマンが創業10周年で製作した二つの傑作に込められたこだわりとは
MORITZ GROSSMANN
モリッツ・グロスマン
モリッツ・グロスマンが創業10周年で製作した
二つの傑作に込められたこだわりとは
ドイツ製高級腕時計の聖地とも称されるドイツ東部に位置し、チェコとの国境近くにある小さな街“グラスヒュッテ”。人口2000人足らずで、歩けば20〜30分で回り終わってしまうほどの小さな街にもかかわらず、名だたる高級時計ブランドが10社以上も林立する。
今回取り上げる“モリッツ・グロスマン”は、2008年創業とグラスヒュッテの時計ブランドのなかでは新興と言える。しかしながら、グロスマンが生み出す時計は、古典的かつ気品にあふれ、とりわけムーヴメントの仕上げは見る者を魅了してやまない美しさだ。
これは19世紀の古典設計を継承し、ムーヴメントの90%以上を自社で製造するほど徹底してハンドメイドにこだわっているからにほかならない。それゆえ時計愛好家ほど評価も高い。
そんなモリッツ・グロスマンから、創業10年目を記念してリリースされた意欲作、バックページとベヌー・アニバーサリーに今回注目してみたいと思う。
バックページ
最大の特徴は見てのとおり文字盤に大胆に設けられたオープンワークだ。しかも、ムーヴメントの表裏を反転させてセットしているため、普段であれば時計を手首から外して裏返しをしないと見られない、グロスマン特有の大きなテンプやブリッジに施されたエングレービングなど、19世紀の古典設計を再現した美しいムーヴメントの作りが、着けながらにして常に楽しむことができる点である。
搭載する手巻きムーヴメント、Cal.107.0は理論的にはグロスマンの旗艦ムーヴメントであるCal.100.1の鏡像だが、多くの部品は新しく設計し直され、運針のメカニズムを視覚的によりわかりやすくするため、運針機構も再構築されていると言う。
単純にムーヴメントを反転させただけではなく、見せるための演出さえもしっかりと手間を惜しまず作られている。まさに完璧さにこだわるグロスマンらしさが垣間見られる、そんな魅力的な1本に仕上がっているのだ。
18金ローズゴールドモデルと世界限定18本のプラチナモデルの2種類がラインナップする。
ベヌー・アニバーサリー
ベヌーは、モリッツ・グロスマンがこの世に生み出した記念すべき最初のコレクション(現在は生産終了)である。19世紀のグラスヒュッテ製懐中時計を彷彿とさせる古典的で落ち着いた造形と、手作りでしか得ることのできない仕上げの美しさは、まさにモリッツ・グロスマンが目指す時計づくりを体現する。
限定リリースされたこのアニバーサリーモデルは、当時の意匠はそのままに、文字盤にはエナメル技法のなかでも最も高度な技術を要する言われるブラックのグランフー・エナメルダイアルが採用された。
そして、モリッツ・グロスマンのシンボルとも言えるロザンジュ針はブラウンバイオレットではなく、ブラックポリッシュ仕上げによって美しい鏡面に磨き上げられ、精悍さも併せもったデザインに仕上がっている。
また、ムーヴメントには当時搭載されていたCal.100.0に変えて、その第2世代に当たるCal.100.1を採用。19世紀の懐中時計と同様に繊細な装飾が施されたテンプ受けには通常の洋銀(ジャーマンシルバー)ではなく、特別に14金イエローゴールドが使われているのも特筆すべき点と言える。
さて気になる限定本数だが、何と世界でたったの10本という代物。全体のバランスといい、美しい独特の艶をもつグランフー・エナメル文字盤の美しさといい、まさに一見の価値あり。気になる人はぜひ実機を見てほしい。
なお、これまで緊急事態宣言を受けて営業を自粛していた文京区小石川の播磨坂(はりまざか)にあるモリッツ・グロスマン ブティックだが、6月2日(火)から営業を再開する(ただし、6月いっぱいは12:00〜18:00まで)。ほかにも魅力的なモデルがあるので、ぜひ一度立ち寄ってみてはいかがだろう。
文◎菊地吉正(編集部)
2020.05.30 UPDATE