独立時計師“マルコ・ラング”のウオッチメイキング⑥
LANG & HEYNE
ラング&ハイネ
古典美と呼ぶにふさわしい
愛好家を魅了するキャリバーたち(第3回)
3回目となる今回は、特殊なメモリー機能を備えた複雑機として2014年に発表されたキャリバーⅦと、ラング&ハイネ初の角型ムーヴメントとして2017年に発表されたキャリバーⅧを取り上げる。
【キャリバーⅦ】
このキャリバーⅦはなかなか独創性に富んだユニークな機構を備えている。それは、任意で設定できる記念日(最大で12人分)の月日、人名などを予めプログラムし、その日から現在までの経過年月を自動的に計算して表示するというものだ。つまり特殊なメモリー機能を備える革新的なムーヴメントなのである。
ちょっとわかりづらいので説明すると、このメモリー機能とは、例えば家族や友人12人の誕生日をあらかじめプログラムしておくとしよう。「○○さんは今年何歳だったろう」と、ふと思ったことはみなさんもおありなのではないか。こんな時に名前と西暦を選択するとその人の年齢が文字盤4時半と7時半位置にあるインダイアルに表示されるというものである。ある意味、家族や仲間を大切にするマルコ・ラングの人柄が出た作品と言えるのかもしれない。
このメモリー機能を有するという独創性もさることながら、手間をかけて磨かれ、繊細なエングレービングが施されたゴールド製のブリッジとバランスコックが、ロジウムメッキのプレートと研磨仕上げされたステンレス部品との見事なコントラストを生み出し実に美しい。この芸術性も大きな魅力と言えるだろう。ちなみに、すべての輪列の歯車は、ムスターシュアンクルとともに18金ピンクゴールド製だ。
キャリバーⅦ搭載モデル
特殊メモリー機能を持つキャリバーⅦを搭載するアウグストゥスⅠ世、最大の特徴はそのすべてのファンクションを何とひとつのリューズ操作だけでできてしまうという点だろう。そして、それらは2時半位置のインジケーターにおいてモードを選択することで切り替えて操作が可能となる。
モードは、DATE(9時半位置の日付調整)、EVENT(6時位置の名前)、YEAR(西暦)、WIND(手巻き)、TIME(時刻調整)の5ポジションが設定されており、リューズトップに設けられたプッシュボタンを1回押すごとに、モード選択針が順に移動し選択できるという仕組みだ。
年齢を確認するには、モードをEVENTに設定、リューズを回して6時位置の小窓に確認したい人の名前を呼び出す。次にモードをYEARに切り替え、再びリューズ操作で知りたい西暦を小窓に表示する。すると同時に4時半と7時半位置のインダイアルに、その年の年齢が自動的に表示されるというわけだ。ちなみに下の写真の時計の場合は、7時半位置で10年単位、4時半位置は1年単位の経過年を指し示しているため60歳と読み解くことができるのだ。
INFORMATION
【キャリバーⅧ】
ラング&ハイネ初の角形ムーヴメントは、香箱から4番車までがほぼムーヴメントの中心に沿ってレイアウトされる典型的な角形輪列ながら、歯車類が細部まで見られるようにと大きな受けは一切使用されずオープンワーク化されている点が大きな特徴だ。
さらに、テンプや一つひとつの歯車は表面に鏡面仕上げを施したステンレススチール製の巨大なコックと青焼きネジで地板に固定されている。この丸みを帯びた独特な造形はオブジェのようにも見え、単調になりがちな輪列に個性を与えると同時にひと際異彩を放ち見る者を楽しませる。
そしておもしろいのが地板に刻まれたブランド名の刻印。ケースバックを見る際に、時計を垂直に回転させることが多いという時計愛好家特有の意図をくみ、意図的に一般的な方向とは逆、上下逆さまに文字を刻印している。
キャリバーⅧ搭載モデル
外装からムーヴメントまですべて新規設計し、ブランド初のレクタンギュラーウオッチとして発表された。古典的なアラビア数字にレイルウエイトラック、そして大振りなスモールセコンドと往年のドクターズウオッチを彷彿とさせる魅力的な作りだ。
しかもよく見ると、スモールセコンドを強調するために、時分針をセンターよりもわずかに上方へあえてオフセットさせている点も見逃せない。まさにムーヴメントの95%を自社で製造するブランドだからこその成せる技である。もちろん文字盤にはコールドエナメルが採用されている。
INFORMATION
(文◎菊地吉正)
2019.04.05 UPDATE