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生粋のドイツ時計 モリッツ・グロスマン物語 第6回

グロスマンムーヴ

 

MORITZ GROSSMANN

モリッツ・グロスマン

 

生粋のドイツ時計 モリッツ・グロスマン物語

第6回
シンプルにして完璧を目指すウオッチメイキング③

全製造時間の60%を費やす
「パーツの仕上げ」


 
 前回のパーツ製造で取り上げた、数ミクロン単位の公差で切り抜かれ、入念に焼き入れと焼き戻しされながら、硬化処理が施されたムーヴメントの各部品は、次に「仕上げ部門」に移される。今回はその「仕上げ」の工程を見ていきたい。
 
 さてこの仕上げの工程、実は1本の時計が完成するまでの全製造時間に対して約60%もの時間が費やされると言う。つまり、それほど重要な作業ということになる。しかも、仕上げと一口に言ってもその方法は下に挙げたように多岐にわたる。それらを各部門のスペシャリストが分業で受け持つという入念さだ。
 
・面取り仕上げ
・鏡面仕上げ
・直線とサーキュラーのヘアライン仕上げ
・サンドブラスト仕上げ
・幅広のグラスヒュッテ方式のストライプ模様
・3段のサンバースト模様
・焼き戻しすることでネジをブラウンバイオレットに発色
・花模様などのハンドエングレーブ
 
 では早速、これらの作業について、特にモリッツ・グロスマンならではの特徴的な仕上げという視点から具体的に見ていくことにしたい。
 
 

【面取り仕上げ】

面取り仕上げ

 ムーヴメントのパーツの角を綺麗に仕上げるための面取り。これに伴う磨き作業には菩提樹の集積材を使った“MDFディスク”が使われる。これに研磨剤を塗りパーツを当てて角を磨いていく(写真左)のだ。これ自体は一般的に用いられる手法なのだが、モリッツ・グロスマンでは、このMDFディスクの回転数を他社と違う毎分100回転にあえて留めている。そのため作業時間が余計にかかってしまうのは至極当然なこと。しかしながら仕上がりは格段に良くなるというのである。作業効率よりもクオリティを優先するモリッツ・グロスマンはこういった見えないところにも徹底してこだわる。
 
 

【鏡面仕上げ(ブラックポリッシュ)】

鏡面仕上げ(ブラックポリッシュ)

 鏡面仕上げとは、パーツの平らな表面を、傷ひとつなく鏡のように美しい仕上げにすることを指す。30ミクロンと15ミクロンの微細なラップフィルムで荒研磨した後、錫(すず)の平らな板の上に研磨剤を塗布し、磨いていく。モリッツ・グロスマンの場合は、丸穴車をはじめコハゼやネジ類などのステンレススチール素材のパーツに用いられており、錫のプレート(写真左)の上で表面に擦り傷などがなくなるまで徹底的に磨き込まれる。1個のネジを仕上げるのに要する時間は何と3時間。想像以上に時間のかかる大変な作業だ。中央の写真はコハゼの規制バネの処理前と処理後の写真である。実際には写真右の赤矢印部分のように表面は鏡面なのだが、中央写真の左側にあるパーツのように見る角度によっては黒く輝いて見えるため“ブラックポリッシュ”と呼ばれている。ちなみにムーヴメントのスチール製パーツに鏡面仕上げを施すのは、グラスヒュッテでは、モリッツ・グロスマンだけだ。
 
 

【幅広のグラスヒュッテ方式のストライプ模様】

幅広のグラスヒュッテ方式のストライプ模様

 グラスヒュッテ様式の代表的なものが、ムーヴメントに施されているストライプ模様である。モリッツ・グロスマンの場合はストライプ一つひとつの幅が広いため加工の難易度が格段に上がる。しかし、手作業によってほとんど凹凸がわからないほど滑らかに仕上げられているため、光の陰影によって筋目がはっきり見え、しかも、それによる美しいグラデーションがさりげなく生まれる。かなりの時間と手間をかけて仕上げられていることが見て取れる。
 
 

【3段のサンバースト模様】

3段のサンバースト模様

 最も大きい角穴車には“ゾネンシェリフ”と呼ばれる伝統的な3段のサンバースト模様(写真中央)が手仕上げによって装飾される。ブラックポリッシュ仕上げが施された隣の丸穴車の無機質さとは対照的で、その装飾が生み出す独特の立体感がとても印象的だ。左の写真はその仕上げの過程を表したもので五つの工程を経て仕上げられていることがわかる。そのため、1枚仕上げるのに2.5時間もかかるという。しかも、これを再現するために、伝統的な回転研削機(写真右)を使用するこだわりようである。
 
 

【ネジはブラウンバイオレットに焼き戻し】

ネジはブラウンバイオレットに焼き戻し

 ゴールドシャトン止めなどのような、重要となるネジ類には、他社では青焼き(ブルー)されているものがほとんどなのに対して、モリッツ・グロスマンでは時分針にも採用されている色味と同じ、ブラウンバイオレットに焼き戻しされている。これは一般的な青焼きよりも色合いを出すのが難しいとされている色だ。
 
 

【花模様などのハンドエングレーブ】

花模様などのハンドエングレーブ

 テンプ受けやガンギ車の受けには、とても繊細ながらもしっかりと深く彫り込まれた花模様のハンドエングレーブが施されている。ジャーマンシルバー製の3分の2プレートに施されたグラスヒュッテストライプ模様が控えめに見えるぶん、このエングレーブがより際立ち、まさに懐中時計のような華やいだ雰囲気を印象づけている。このテンプまわりの仕上げこそが、古典設計を旨とするモリッツ・グロスマンならではの魅力を視覚的にもたらしていることはいうまでもない。
 
 
 このように、それぞれの仕上げには、常にモリッツ・グロスマンならではの独自性とこだわりがしっかりと盛り込まれている。しかも、それはすべて生産効率という言葉からはかけ離れたものだ。1本の時計が完成するまでにかかる全時間の60%が費やされる “仕上げ作業”。そこには完璧主義を貫く、まさにモリッツ・グロスマンの真髄を感じる。
 
 さて、次回はモリッツ・グロスマンが自製にこだわる象徴的部分とも言える、テンワと針について触れてみたい。
(文◎菊地吉正)
 
 

問い合わせ:モリッツ・グロスマン ブティック TEL.03-5615-8185
www.grossmann-uhren.com

 

2018.11.13 UPDATE