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生粋のドイツ時計 モリッツ・グロスマン物語【最終回】

 

MORITZ GROSSMANN

モリッツ・グロスマン

 

生粋のドイツ時計 モリッツ・グロスマン物語

最終回
グロスマン製ムーヴメントの
真髄とは

 
 
“生粋のドイツ時計 モリッツ・グロスマン物語”と題して、これまで8回にわたってグロスマンの歴史や、どのように時計が作られているのかについて細かくみてきたがそれもいよいよ最終回。そこで今回は19世紀の古典設計を継承し、その90%以上を自製する同社ならではのムーヴメントの特徴的な点について、最後にあらためて一つひとつ整理してみていきたいと思う。


 
グロスマンのムーヴメント1

 
 上の写真はモリッツ・グロスマンの41mmサイズのベーシックなアトゥムに搭載されているCal.100.1である。モリッツ・グロスマン初のムーヴメントであるCal.100.0の第2世代で、グロスマンの基本設計はこのムーヴメントで完成をみた。そこでこのCal.100.1を参照しがらモリッツ・グロスマンならではの特徴を以下に簡単にまとめさせていただく。ちなみにシースルーバック仕様の裏ブタからは、このままの美しい作りが実際に見ることができるので、機会があったらぜひ実機をご覧いただきたい。
 
 さて、モリッツ・グロスマンはもちろんだが、A.ランゲ&ゾーネやグラスヒュッテ・オリジナルなどのドイツ・グラスヒュッテに本拠を置く時計メーカーは、グラスヒュッテ製だということを強調するためにムーヴメントにある仕様を取り入れている。それが“グラスヒュッテ様式”と呼ばれるものだ。これは19世紀の懐中時計、そのなかでも特に高級なものにかつて施されていた仕様で、現在では主に次の四つが採用されている。
 

1.安定性を高める効果を狙った洋銀製4分の3プレート、
2.ムーヴメントの美観を高めるグラスヒュッテストライプ(縦縞模様)
3.受け石の整備性を考慮したビス留め式ゴールドシャトン(❶参照)
4.そして繊細なハンドエングレーブ入りテンプ受けだ

 
 あらためて上のムーヴメントの写真を見ていただくとわかるが、まず全体の3分の2を覆う半円形の洋銀製プレートがわかるだろうか。A.ランゲ&ゾーネなどは4分の3プレートを採用するが、モリッツ・グロスマンのそれは、19世紀に作られたグロスマン製懐中時計用ムーヴメントに倣って3分の2プレートが採用されている。またそれは特徴的なグロスマン製テンワ(❸参照)の全体が見られるように、その部分だけあえてアーチ型にカットされているのもグロスマン流だ。
 
 また、3分の2プレート表面のストライプ模様(グラスヒュッテストライプ)は、グロスマンの場合ストライプ一つひとつの幅が広いのが特徴である。そのため加工の難易度が格段に上がるものの、凹凸はとても滑らかに仕上げられているため光の陰影によって筋目がはっきり見えてグラデーションも美しい。また、その上に刻まれたブランド名などの文字はすべてが手彫りで行われるなど、独自性にこだわった手の込んだ作りなのがこれだけ見てもおわかりいただけるだろう。
 
 では最後にグロスマン流の真髄とも言える他にない特徴的な仕様と機構を六つほど挙げさせていただく。
 
 

❶ゴールドシャトン

グロスマンのムーヴメント2

 3本のビスを使ったビス留め式ゴールドシャトンは、かつて石が破損した場合に交換する際の利便性を高めるために考案されたものである。モリッツ・グロスマンは最も重要となるネジ類に、他社では青焼き(ブルー)されているものがほとんどなのに対して、時分針にも採用する、ブラウンバイオレットに焼き入れされている。これは一般的な青焼きよりも色合いを出すのが難しいとされている色だ。しかも上の写真を見るとわかるが、18金ゴールド製のシャトンも穴石の真に歪みが出ないよう深く作られるなどかなり手が込んでいる。
 
 

❷マイクロメトリックススクリュー

グロスマンのムーヴメント3

 マイクロメトリックススクリューを載せた緩急装置は最も特徴的なもののひとつだ。頭が四角いネジ(写真の中央右下)を回すことでテンプ受けに設けられたボールネジ上に固定された台座が動き、噛み合った緩急針の先端を左右に動かすことで、調整を行うことができるというものだ。この機構は19世紀にグロスマン自身が使っていたものの(下の写真の赤丸)、手間がかかるために普及することはなかった。平滑さを保ちながら細かく微調整できるという特徴を備える。
グロスマンのムーヴメント4

 
 

❸グロスマン製テンワ

グロスマンのムーヴメント5

 モリッツ・グロスマン製のテンワはこの独特な形もさることながら、直径14.2mmという巨大さも大きな特徴だ。通常はテンワの外周にまんべんなくセットされているチラネジを廃し、テンワが少し内側に凹んだ2箇所にそれを集約させた。そうすることで、スペースができるためテンプ自体の直径を大きくし慣性を高めたというわけだ。同時にチラネジによって発生していた空気抵抗を極力抑えて精度を安定させることにも成功している。ちなみに精度調整は対になった二つのプラスネジのみで行う。
 
 

❹3段サンバースト模様

グロスマンのムーヴメント6

 最も大きい角穴車には“ゾネンシェリフ”と呼ばれる伝統的な3段のサンバースト模様が手仕上げによって装飾される。ブラックポリッシュ仕上げが施された隣の丸穴車の無機質さとは対照的で、その装飾が生み出す独特の立体感がとても印象的だ。上の写真はその仕上げの過程を表したもので五つの工程を経て仕上げられていることがわかる。そのため、1枚仕上げるのに2.5時間もかかるという。
 
 

❺巻き上げ機構

グロスマンのムーヴメント7

 取り外し可能な巻上げ機構を備えているのもグロスマン製ムーヴメントの特徴である。自動巻きに比べて手巻きの場合は最も使う頻度が高くなる部分だけにメンテナンス性に配慮した画期的な機構である。しかも、巻き真のチューブや部品の軸には硬いベリリウム鋼を採用。耐久性を大きく高めている。写真は独自のプッシャー付き手巻き機構。リューズを引き出すと秒針が停止するのは従来どおりだが、同時にリューズは元に戻ってしまうため、解除は4時位置の専用のプッシャーを押す必要がある。これはリューズを引き出して針を合わせている間にケースに埃が入ったり、リューズを押し込む際に針の位置が変わってしまうのを防ぐためだ。
 
 

❻支柱構造

グロスマンのムーヴメント8

 ムーヴメントの3分の2プレートを“ピラー(柱)”で支えている(上の写真の赤丸)構造もモリッツ・グロスマンならではの特徴である。通常はプレートの外周に設けた壁で支えるが、グロスマンはあえて19世紀当時と同じように柱を使う。こうすることによってムーヴメントの内部を横から見られるというメリットがあり、どこに問題があるのかを確認しやすい。つまり、19世紀の懐中時計用ムーヴメントの仕様を単に再現したのではなく、整備性を重視した結果あえて採用したものである。
 
 
(文◎菊地吉正)
 

<モリッツ・グロスマン物語 バックナンバー>

 
第1回 グラスヒュッテの地にその名を残す伝説の時計師
 
第2回 新生モリッツ・グロスマン誕生
 
第3回 手作業で行われる時計製造の拠点
 
第4回 設計、プロトタイプ製造、そして工具製造まで
 
第5回 パーツ製造から焼き入れ焼き戻し
 
第6回 全製造時間の60%を費やす「パーツの仕上げ」
 
第7回 完璧主義を体現する自社製造の「テンワ」と「針」
 
第8回 精度と美しさに完璧さを求めるゆえの“2度組み立て”
 
 

問い合わせ:モリッツ・グロスマン ブティック TEL.03-5615-8185
www.grossmann-uhren.com

 

2019.06.11 UPDATE