ドイツ軍用時計の製造も担った時計メーカー、ヴェンペ
WEMPE
ヴェンペ
第2次大戦時にドイツ軍向けに
製造していた軍用時計がモチーフ
いまやドイツ・グラスヒュッテを代表する時計メーカーに成長したヴェンペ(WEMPE)。以前の記事では、それに至るまでのヴェンペの歴史について詳しく紹介したが、そのなかで触れていなかったことがひとつだけある。それはヴェンペが第2次世界大戦時にドイツ軍向けの軍用時計を製造し納入していたことである。つまり、それだけドイツ国内の中でも信頼のおける時計メーカーだったということが言える。
ドイツは第2次世界大戦時に、国防軍最高司令部主導のもとで陸、海、空軍で使用するクロノメーターやナビゲーションウオッチを製造。しかもそれらは、開発から調達、検査に至るまで軍によって細かく規定されていた。
特に第2次世界大戦は戦闘機や爆撃機などの航空機が結果を大きく左右するほど戦術的に重要な位置付けだった。そのためパイロット用の時計となると軍の装備品としては特に高い精度が要求され、そのほとんどは国内メーカーによって製造されていた。そしてそれを担っていたのが、A.ランゲ&ゾーネ、ラコ、ストーヴァ、そしてヴェンペ(写真❶)だったのである。ちなみにスイスのメーカーでは唯一IWCが製造している。
そして、各社が空軍パイロット用に製造していたナビゲーションウオッチが“Baumauster B”こと通称Bウオッチ(B-Uhr、Bウーレンとも呼ぶ)である。
海軍用は懐中時計が多かったが、空軍のそれは、瞬時に確認ができるように腕時計型をしていた。各社は軍が規定したスペックシート(写真❷)に基づいて製造。そのため完成したBウオッチは製造元が違えどもすべて外装やデザインは同じ仕様に統一されていた。
その仕様は次の通り。アラビア数字とバーインデックスを備えるマットな黒文字盤で、そのケースは直径55㎜のアルミニウムまたは洋銀製の鍛造ケースを使用。さらにケースの色はグレーに統一された。加えて、分厚いパイロットスーツの上からでも装着できるよう、ベルトは長く1枚革で作られている。さらに海軍のスモールセコンドよりずっと見やすいセンターセコンドへの変更もBウオッチならではの特徴だった。
往年の軍用時計をモチーフにした
パイロットウオッチ
ドイツ空軍のためにヴェンペが製造していた航空ナビゲーションウオッチ、Bウオッチをモチーフにしたのがツァイトマイスターコレクションのアビエーターシリーズである。
往年の雰囲気を残しながらも現代的なエッセンスもプラスしており、洗練された印象に仕上がっている。そのためオン・オフどちらでも楽しめるファッション性も魅力と言えるだろう。
外装面の仕上げもさることながら、ムーヴメントも特筆できる。信頼性の高いスイス・ETA社製を採用。しかも、そのまま使うのではなく、すべて一度分解してから高い精度が出るように再調整したうえで搭載している。
ツァイトマイスターに搭載されているのはETA社でもトップクラスのものである。さらに同社は分解再調整に加えて、緩急針をエタクロンから高級なトリオビス(上の写真)に交換し、耐震装置もインカブロックではなく復元性が高いキフショックに変更。ドイツクロノメーター検定に合格するレベルまで、贅沢すぎるほどの改良が加えられている。
しかもこの高級モデル並みの仕様ながら、クロノグラフ機能を搭載したモデルでさえも30万円台と、コストパフォーマンスの高さも大きな魅力なのは言うまでもない。
(文◎菊地吉正)
2019.05.15 UPDATE