A.ランゲ&ゾーネ SIHH2018 新作
スプリットセコンドクロノグラフの大作
ブランド復興の立役者であり、同社の精神的支柱であったウォルター・ランゲ氏の訃報がもたらされてから1年。新たな経営体制のもと再スタートしたA.ランゲ&ゾーネがSIHH 2018において発表した新作は、生前、氏がよく口にしていた“決して立ち止まってはならない”という言葉を体現するがごとく、革新技術が導入された新規性にあふれたモデルが登場している。
その最たるモデルが、同社最長の積算時間を実現したスプリットセコンドクロノグラフを持つ“トリプリスプリット”である。2004年、同社では最長30分までのタイム計測が可能なラトラパント機能を備えたダブルスプリットを発表し、クロノグラフでも存在感を示したが、トリプルスプリットは実にその24倍となる12時間までに拡大している。クロノグラフ秒針、分積算秒針、時積算秒針が一対となり、ブルースチールによって仕立てられた各針がラトラパンテ用。さらに3対の針すべてにフライバック機能も備えられた。高度なラトラパント機構によってトライアスロンなどの長時間レースなど、用途を飛躍的に広げたというわけである。
トリプルスプリットに搭載するのはCal.L132.1。これは既存のダブルスプリットに搭載されたCal.L001.1とは一線を画し、新規開発された。積算計作動時に避けることのできない振幅の減少を防ぐ特許技術のアイソレーター機構を採用するなど、精度への影響も最小限に抑えられている(ただし、香箱からの直接駆動となる時積算計には備えていない)。また巧みな設計でケース径はダブルスプリットと同様、ケース厚みはわずか0.3㎜増とコンパクトで、さらにパワーリザーブが約55時間に延長された点も特筆できる。
ウォルター・ランゲへのオマージュ
もうひとつ見逃せないのが、“ウォルター・ランゲへのオマージュ”として、1815ファミリーに加わった複雑機構モデルである。これには、ウォルターの曽祖父にあたるフェルディナンド・アドルフ・ランゲが1867年に発明した技術をベースに発展させた、始動・停止機能付きのジャンピングセンターセコンドが搭載されている。つまりはステップ運針の簡易クロノグラフだ。機械式腕時計において最小の時間単位である“1秒”をはっきりと指し示すことで、極めて正確な判読を可能にした。
また、オマージュモデルらしく、キャリバー名はウォルター・ランゲの誕生年にちなむ“L1924”、レファレンスナンバーの上3桁は誕生日7月29日にちなむ“297”が与えられた。ホワイトゴールド仕様145本、ピンクゴールド仕様90本、イエローゴールド仕様27本のみの限定製作である。さらに同社史上、公式ではおそらく初となるステンレススチール仕様が2018年に開催されるチャリティー・オークション用として1本のみ製作され、これも大きな話題となった。
サクソニアがファミリーを拡充
“less is more”(より少ないことは、より豊かなこと)の精神に則り、シンプルなデザインを追求する一方で、機械構造の最適解と審美性を最優先したランナップを展開するサクソニアシリーズにも新作が登場している。
ひとつがミッドナイトブルーの文字盤に酸化銅の結晶を散りばめ、星空のごとく幻想的な雰囲気を醸し出したサクソニア・フラッハである。シルバー無垢文字盤の表面をゴールドストーン(紫金石)の層で覆ったため、ケースはわずかに厚みを増したが、直径を1㎜縮小することでサクソニア・フラッハの魅力である優れた装着感をキープした。ダークブルーの手縫いアリゲーターベルトを組み合わせ、時計全体の調和も整えられている。
さらに自動巻きのCal.L086.1をベースに、ブランドを象徴するアウトサイズデイト機構が追加されたL086.8を搭載したサクソニア・アウトサイズデイトも登場している。本作では機構面もさることながら、デザイン面にも注目したい。アウトサイズデイト機構の日付ディスクは、白地に黒色の数字のプリントが通常仕様だが、本作では反転カラーを採用。黒文字盤に黒地の日付ディスク表示を溶け込ませることで精悍な雰囲気が強調された。このほか、サクソニアファミリーにはムーンフェイズでも同様の黒文字盤が新色として追加されている。
エレガントなピンクゴールドモデル
いまでは珍しいパルスメーターを装備し、そのクラシカルな意匠が愛好家からも高い支持を得る1815クロノグラフに、エレガントなピンクゴールドケース仕様2種が追加。繊細さとダイナミックさを併せ持つフライバック付きCal.L951.5の造形美は、このモデルの大きな醍醐味である。
エレガントなピンクゴールドモデル
ランゲ1よりもひと回り小さい36.8㎜サイズで展開されるリトル・ランゲ1にパープル、グレー、ココアブランの3色の新バリエーションが登場。各色、文字盤とベルトの組み合わせをワントーンで統一することで、洗練された雰囲気が演出された。さらに注目は、今作より2015年に発表されたランゲ1の新Cal.L121.1が採用されたことである。L121.1は、アウトサイズデイト機構が瞬転式に改められたほか、フリースプラング式の大径テンプを持ち優秀な精度を誇る。(文◎堀内大輔)
2018.04.01 UPDATE