ランゲ・ファーストコレクションに思いを馳せて
A.LANGE & SÖHNE
A.ランゲ&ゾーネ
ファーストコレクションに思いを馳せて
1994年10月24日は、ウォルター・ランゲとギュンター・ブリュームラインの手によって復興を遂げたA.ランゲ&ゾーネが、ファーストコレクションを世界に向けて発表した日だ。
ファーストコレクションとして発表されたモデルは角形の“アーケード”、伝統を継承した“サクソニア”、超絶機構を搭載する“トゥールビヨン ・プール・ル・メリット”、そして異形なレイアウトを持つ“ランゲ1”の4つ。
今回は、この記念すべき日に思いを馳せて、発表以来、同社のアイコンとして多くの支持を得る不朽の傑作、ランゲ1にスポットを当てたい。
ランゲ1はなぜ選ばれるのか。
三つの視点からその魅力に迫る。
Design
発表時、なによりもまず時計愛好家の目を奪ったのは、ランゲ1のその異形とも言える斬新な文字盤デザインであった。時分、秒、日付け(アウトサイズデイト)の各表示が重なることなく配置されたオフセンターのデザインは、通常のウオッチデザインのセオリーから逸脱したセンセーショナルなもので、目の肥えた愛好家ですらも驚嘆させたのである。
しかし、ランゲ1が、単に奇抜さを狙った時計でないことは一見しておわかりになるだろう。逸脱しているようで、その実、プロダクトデザインにおけるセオリーに忠実に、そして細部まで計算し尽くされているからこそ、20年以上経ったいまなお愛される不朽の傑作となり得たのである。
例えばメインダイアル(時分)、サブダイアル(秒)、アウトサイズデイト(デイト表示)は、それぞれの中心を線で結ぶと二等辺三角形が形成され、さらにサブダイアル、アウトサイズデイトの中点にはパワーリザーブ表示の針が配置されているなど、アシンメトリーでありながらも、幾何学的なレイアウトになっている。またインデックスのサイズ、間隔、ロゴの大きさまでも厳格に定められており、均整の取れたプロポーションが追求されているのだ。
なおこのランゲ1の初作のデザインを手がけたのは、当時のLMHのプロダクトデザイナーであったラインハルト・マイス。数学者でもあった彼は、トゥールビヨンに関する著書を残すなど、数学的センスに長けた人物であった。
また文字盤デザイン同等に、ランゲ1に強烈な個性を与えているのが、根本がシェープされたラグである。
パテック フィリップのカラトラバ登場以来(1932年)、ケースと一体化された形状がドレスウオッチのスタンダードとされてきたのに対して、ランゲ1では溶接によってラグを取り付け、むしろ立体感を際立てる造形に仕上げた。これがランゲ1にドイツプロダクトらしい頑強な雰囲気を与えたのである。
発表から20年以上経ったいまなお、ランゲ1は発表当時から基本スタイルをほとんど変えていない。
しかし、時代が変わろうとも、ランゲ1のデザインは見るものに“斬新さ”と“美しさ”を感じさせる。優れたデザインとは、まさにこういうものであろう。
Quality
仮にランゲ1が、デザインが秀逸なだけの時計であったのならば、いまほどの支持を得ることは難しかったかもしれない。“ドイツ時計の最高峰”という称号は、デザインに加え、徹底したクオリティコントロールという両輪が揃ってこそ得られたものなのである。
例えば、ランゲ1を象徴するもうひとつ顔であるムーヴメント。これは、洋銀製の3/4プレートやゴールドシャトンといったディテールを持ったグラスヒュッテ伝統様式と呼ばれる古典的なスタイルを踏襲する。しかもこれをランゲ1では、パーツの一つひとつまで手作りであった往時のクオリティに匹敵するほど高めているのである。熟練の職人が施したプレートのグラスヒュッテストライプ模様、テンプ受けのエングレーブなどといった精緻な装飾は、見るものを魅力する。
その古典的な意匠に反して、設計やメカニズムは最新かつ独創的だ。
2015年よりランゲ1に搭載されるCal.L121.1には、自社製ヒゲゼンマイを持つフリースプラング式テンプが与えられたほか、独自のアウトサイズデイトがさらに進化し、瞬転式に改められている。
また、クオリティへの追求はもちろん外装も然りで、丁寧な磨きがケースやラグの隅々までかけられている。こうした外装への丁寧な仕上げが、デザインをいっそう引き立てていることは言うまでもないだろう。
Status
ブランドの再興当時、名門でありながらも長く休眠していたA.ランゲ&ゾーネの知名度はそれほど高くなく、一部の愛好家にしか存在を知られていなかった。
そんななか、異形のレウアウトとなった文字盤デザインと古典的なスタイルを与えたムーヴメントという、新旧二つのエッセンスを併せ持ったランゲ1は、インパクトも抜群で、一般ユーザーにも広くその存在を知らしめた。“機械式”が再評価され、かつての旺盛を取り戻しつつあった1994年当時の時代背景を考えれば、その衝撃度はいま以上の感覚だろう。もしファーストコレクションにランゲ1がなかったら、A.ランゲ&ゾーネが今日のポジションにたどり着くまで、もう少し時を要したはずである。
発表から20年以上、アイコンモデルとして展開され続けるランゲ1。いまや多くの著名人にも愛用され、時計ファンでランゲ1を知らない人はまずいないだろう。
ひと目でそれとわかる独特なデザイン、ゴールドやプラチナ(一部例外を除く)といった高貴な輝きを放つケースが醸し出す高級感、英知が結集されたムーヴメントのどれをとっても第一級のランゲ1を所有することは、多くの時計ファンにとって憧れであり、大きなステイタスなのである。
現在、ランゲ1はデザインのバランスを変えることなく、ムーンフェイズモデルや自動巻きモデル、トゥールビヨンモデルなどの派生モデルが生み出され、ファミリーを増やし続けている。
かつてブランド再興の折にウォルター・ランゲが、“新たなる規範を確立する時計”を目指して生み出したランゲ1。
その目論見が達せられたことは、改めて言うまでもない。
(文◎堀内大輔)
2018.10.24 UPDATE