SIHH2019新作時計レポート A.ランゲ&ゾーネ
A.LANGE & SÖHNE
A.ランゲ&ゾーネ
ランゲファンには楽しみな、
そんな1年となるに違いない
A.ランゲ&ゾーネにとって2019年は特別な年となるようだ。それもそのはず、ブランドを代表するモデル“ランゲ1”が誕生した1994年から25年目であり、同ブランドのアイコンでもある初のデジタル時計“ツァイトヴェルク”登場から10年という、二つの重要なアニバーサリーイヤーとなったからである。
新作のお披露目の場としてジュネーブで毎年開催されるSIHH(ジュネーブサロン)のA.ランゲ&ゾーネのブースでも、今回はそれを象徴するように中央に鎮座する巨大なランゲ1“25thアニバーサリー”のモニュメントが出迎えてくれた。
これ以外にもブース内は1994年からの軌跡がわかるような趣向を凝らしたものになっていた。実のところ、筆者が真っ先に目に留まったのは、先に触れた巨大なモニュメントではなく、ブース奥の部屋にさりげなく置かれていた旧東ドイツの国民車、通称トラビことトラバントである。
そして、その背景になるように、その後ろにはベルリンの壁崩壊時のブランデンブルク門の有名な写真が一面に飾られるなど、当時の演出がとても印象的だった。しかも本物のベルリンの壁の一部までもが飾られていたのにも驚かされた。
それと印象的だったことがもうひとつある。これはある意味、筆者と同じ立場の人たちに限ったことかもしれないのだが、それはブース内の通路の壁一面にプリントされていた世界中の時計専門誌の表紙だった。多くのメディアがちょうどプレスカンファレンス会場へと向かう通路でもあることから、メディアに対するこれまでの感謝の現れなのだろう、これもなかなか素敵な演出だと感じたのである。ただ、その中に我が“ドイツ腕時計”の表紙がなかったのはちょっと残念だったのだが…。
そんな今回のSIHHで発表された新作は、上の写真にある全部で5タイプ。写真左から順に、SIHHに先立って発表されたランゲ1“25thアニバーサリー”、ダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビョン、10周年を迎えたツァイトヴェルクの新作ツァイトヴェルク・デイト、ランゲマティック・パーペチュアル・ハニーゴールド、そしてリヒャルト・ランゲ・ジャンピングセコンドである。
加えてランゲファンに朗報がひとつ。今年はこれら以外にもアニバーサリーイヤーとしてランゲ1の特別モデルが、毎月24日に発表されるとのこと。ランゲファンにとっては気が抜けない。そんな楽しい1年にもなりそうだ。
さて、今回のSIHHでは、上に挙げた5モデルの実機をいち早く見させていただいた。そこでこれら新作についてもレポートしたい。ただ、以前の記事ですでに詳しく紹介しているランゲ1“25thアニバーサリー” と超複雑なダトグラフ・パーぺチュアル・トゥールビヨンは今回割愛させていただき、ほかの3モデルについて実機を見た感想も含めて取り上げたいと思う。
ランゲマティック・パーペチュアル・ハニーゴールド
ランゲマティック・パーペチュアルの初出は2001年のこと。ランゲのシンボルにして独自の機構でもあるアウトサイズデイトと永久カレンダーを統合した初のコンプリケーションであり、さらにそのムーヴメントが自動巻きということでも当時は新しく、大いに注目されたモデルである。
今回の新作は、A.ランゲ&ゾーネだけが使用を認められているもので、これまでも特別なモデルにのみ採用されてきた貴重な金素材であるハニーゴールドを、ケースや針、インデックス、そしてバックルにまで使用した100本限定のスペシャルエディションだ。
このハニーゴールドだが、通常の金合金の2倍の硬度を持つというかなりのスグレモノ。そのため2100年まで調整不要で正確に日付を表示してくれる永久カレンダー機構と同様に、ゴールドの美しさを保ちつつ安心して長く愛用できるというのも大きな魅力と言えるだろう。
そして、早速実機を着けさせていただいた。これだけの機能を備えながらもケースサイズは38.5mm、厚みは10.2mmのため貧弱な筆者の手首にもジャストフィット。しかも重心が下にあるためにとても安定感があって着け心地もすこぶる良く、思わず気に入ってしまった。そして何よりも顔がいい。懐中時計を思わせる古典顔はやっぱりダーク系よりもホワイト系が似合う。しかもその文字盤の素材にシルバー無垢を使用しているため柔らかさがあり品の良さを感じる。長く愛用すればするほど味わいもきっと深まるに違いない。
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リヒャルト・ランゲ・ジャンピングセコンド
リヒャルト・ランゲ・ジャンピングセコンドは、復興後のA.ランゲ&ゾーネ初となるステップセコンド機構搭載機として2016年に登場した。このステップセコンドとは、秒針が滑らかに運針するのではなく、クォーツ式のように1秒ごとにジャンプして運針するという特徴を備える。つまり、この動きをクォーツ式ムーヴメントではなく手巻きの機械式ムーヴメントであえて表現している点が違うのだ。
加えて、よく見ると時針、分針、秒針が同軸状ではなく、それぞれが独立したいわゆるレギュレーター機構を採用する。しかも分針はセンター軸ではなく、三つの針すべてがオフセンターというのもなにげにすごい。つまり分針をオフセンターに配置できたことで、1番に見せたかった秒表示を強調したこのデザインが可能となったと言えるだろう。
そして今回、バリエーションとして新たに黒文字盤が加わった。実際に着けさせていただいたが、39.9mm径と小振りと言えるほどでもないのだが、黒のためか引き締まった印象になり、特徴的なデザインとも相性がよく、ほかのA.ランゲ&ゾーネのコレクションと違う、とてもモダンな印象を受けた。そのため、ファッション的にはなかなかいい感じに決まるのではないだろうか。
INFORMATION
ツァイトヴェルク・デイト
瞬転数字ディスクによるデジタル時刻表示機能を持った初めての機械式モデルとして2009年に発表されたこのツァイトヴェルクは、その個性的なダイアルデザインと独創性に富んだメカニズムなど高い評価を受け、いくつもの賞を獲得している。その意味ではいまや同社のコレクションの中でもシンボリックな存在といえるだろう。そして、誕生から10年を経た今年、このツァイトヴェルクに初めてデイト表示機能が搭載された。
ツァイトヴェルクには、ストライキングやミニッツリピーターなどの上位機種がバリエーションとしてすでに存在する。にもかかわらずこれまでデイト表示を備えたモデルはなかったというのはいま思えば意外だった。その理由は、時刻表示用の大きな数字ディスクを備えていたために、ムーヴメント内にデイト機能を組み込むだけのスペースがなかったということのようだ。
そこでランゲの開発陣は、ムーヴメントの構造を一から見直し、再設計。文字盤外周に配置するリング式を考案。それによって特徴的なダイアルデザインにも影響することなく、デイト表示を装備することに成功したというわけである。
さらに今回はカレンダー機能の新技術だけでなく、実用面でもかなりブラッシュアップされている。それは大きく二つ。ひとつ目は36時間から72時間へと2倍に伸びたパワーリザーブである。これによって月曜日の時刻合わせから解放された。
そして二つ目は、ひとつめにも関連することになるが、時表示だけを進められるボタンが4時位置に追加されたことだ。これまでは時刻合わせの場合に、リューズで1分ずつ送らなければならなかった。通常のアナログ表示の場合は簡単だが、デジタル表示の場合はこれが結構手間のかかる作業になる。時表示だけを進められる機能が備わったことで、この時刻合わせの操作性も大幅に改善されたのだ。
シンボリックな存在というだけでなく、使える時計としてもぐっと進化を遂げたことは大きいのではないか。
INFORMATION
(取材・文◎菊地吉正/写真◎神戸シュン)
2019.02.07 UPDATE