“ウォルター・ランゲ・ウォッチメイキング・エクセレンス・アワード”優勝作品が決定
A.LANGE & SÖHNE
A.ランゲ&ゾーネ
優れた時計師の育成を目的に、A.ランゲ&ゾーネが2010年より主催するコンテスト”ウォルター・ランゲ・ウォッチメイキング・エクセレンス・アワード”。これは、世界各地の時計師養成学校の生徒のなかから選ばれた数名が、同社の工房で時計製作の現場を体験し、約6カ月をかけて決められた課題の回答となる作品を製作し競い合うというものだ。
栄冠はフィンランドに
2018年4月に、ランゲ本社の工房で開催されたワークショップで発表された“ウォルター・ランゲ・ウォッチメイキング・エクセレンス・アワード”の課題は、「ハンマー打ち機構の設計と製作」。それから半年間、ドイツ、フィンランド、フランス、日本、オランダおよびスイスの時計師養成学校から推薦された8名の才能豊かな時計師の卵たちが、その課題に取り組んだ。
応募作品が出揃った同年11月末、審査員4人が集まり作品を分析し評価。審査員団には、ランゲ商品開発責任者のアントニー・デ・ハス氏のほか、時計専門ジャーナリストのギスベルト・ブルーナー氏とペーター・ブラウン氏、そしてドレスデン数学・物理学サロン所長のペーター・プラースマイヤー氏が名を連ねた。
活発に意見が交わされた後、審査員団は満場一致で、15分ごとにメロディーを変えて打鐘するリピーター搭載時計“オスティナート”を優勝作品に決定。製作したのはフィンランド・エスポー市で時計師養成学校に通う若干22歳のオットー・ペルトラ氏で、コンテスト応募作品が満たすべき4つの要件すべてにおいて秀でた技能を示した。
ムーヴメントは独創性、機能性、手仕事の質の高さ、美観のどの点においても傑出している。特に素晴らしかったのは、6つのゴングを組み込み、音量豊かに非常に心地よい音の組み合わせで時刻を知らせる打鐘の完璧さである。このように革新的な構造のリピーターを思いついたのは、ペルトラ氏が音楽一家という環境に育ったことと無縁ではないだろう。作品名にもそれをうかがうことができる。“オスティナート”とは、曲のなかで、あるリズムまたはメロディーを繰り返し演奏することを意味する音楽用語なのである。
審査員団は、応募作品を審査しながら着想を得ることも多々あり、とりわけ応募作品8点すべての創造性の豊かさについては、総じてこれまで以上のレベルであったと賞賛している。提出された作品は堅実なだけではなく、課題が難しかっただけに予想もしなかった意表を突くような興味深い斬新なアイディアで作られたものばかりであったという。
また今年は、優勝作品以外にも平均以上に優れた2作品に、特別に賛辞が贈られた。この2人の応募者が作ったムーヴメントは、それぞれに意外なアイデアを巧みに具体化した完成度の高さで審査員をうならせたのである。
そのひとつは、ドイツのプフォルツハイム金細工師養成学校の時計技能士課程に通うリンダ・ホルツヴァルト氏の作品。音でパワーリザーブ残量を知らせるというアイディアで傑出しているだけでなく、この機構に組み込まれた遊星歯車も自分で設計したという力作である。彼女の作品では特に、アイディアがひとつ残らずきちんと時計に反映されている点が高く評価された。自分で設計したラックと手作業でギョーシェ模様を施した文字盤などの装飾要素が、時計を最後まで丁寧に作り上げた完成度の高さを物語る。
同様に審査員を感心させたのは、東京のヒコ・みづのジュエリーカレッジに在籍する飯塚雄太郎氏の任意に設定した温度を音で知らせるというアイディアである。飯塚氏は、かつて存在したある懐中時計からこの着想を得て、バイメタル構造の機構を設計した。
ベースムーヴメントの構造には通常のものと大きな違いが見られる。これは日本文化を色濃く反映した結果と言える。音を出すためにハン
マーが叩く外周リングを、かつて日本でドイツ人地質学者によって発見された石材(サヌカイト)で作ったのである。
2019.02.21 UPDATE