【2021年新作時計】A.ランゲ&ゾーネ|近代クロノグラフの傑作、ダトグラフに連なるクロノグラフモデルの最新作
A.LANGE & SÖHNE
A.ランゲ&ゾーネ
クロノグラフは古くからある機構でありながら、長い間大きな変化はほとんど見られなかった。
特に1973年に汎用クロノグラフの良作としていまもの製造されるバルジュー7750(現在はETA7750)が登場して以降は、多くの時計メーカーがこれを採用したため、その傾向はいっそう顕著になったといえるだろう。
こうした状況に一石を投じたのが、まだ再興から5年ほどしか経っていなかったA.ランゲ&ゾーネが1999年に発表した“ダトグラフ”だ。
搭載したのは手巻きのCal.L951.1。カム式の自動巻きクロノグラフが主流となっていた当時、手巻きの、古典的なコラムホイールとキャリングアームを採用した重厚かつ審美性が際立ったムーヴメント構成は世界中の愛好家から賞賛される同時に、多くの高級時計メーカーもこれに触発された。以降、パテック フィリップをはじめ自社製の高級クロノグラフムーヴメントを手がけるブランドが相次いだのである。
もうひとつダトグラフが革新的だったのは、そのスタイリングだ。
一般的なクロノグラフではインダイアルがセンター軸とほぼ同じ高さにあったのに対して、ダトグラフではインダイアルを一段下げて4時と8時方向にレイアウト。12時のアウトサイズデイトと二つのインダイアルを正三角形で結んだ、独自のスタイリングを確立したのである。
もっとも“インダイアルと下げる”というのは、そう容易なことではなく、実現するためにムーヴメントをゼロから開発する必要があった。その甲斐あってダトグラフは、ウォルター・ランゲが再興当初よりこだわった“新たなる規範を確立する時計”として申し分ない、明確な個性を得たのである。
以降、ダトグラフはトゥールビヨンを搭載するなど複雑化するほか、ダブルスプリット(2004年)やトリプルスプリット(18年)といった派生も生み出し、今日多くのラインナップを擁している。
ダトグラフに連なるクロノグラフモデルの最新作
2004年に発表されたダブルスプリットは、通常、クロノグラフ秒針にのみしか備えられていないラトラパンテ針(スプリットセコンド針)を、30分積算計にも備え、分単位でラップタイム計測も可能にした革新的なモデルだ。さらに18年にはこの進化版として、時積算計にもラトラパンテ針を装備したトリプルスプリットが登場。計測可能時間を一気に24倍の12時間に拡げた。
今年、そのトリプルスプリットに、ピンクゴールドケースにブルー文字盤を収めたモデルが仲間入りしている。
搭載しているのはCal.L132.1。その複雑さはいわずもがなで、実に567点ものパーツで構成される。トリプルラトラパント機能を開発するにあたって課題となったのは、メカニズムの複雑さもさることながら、“多大なエネルギー消費”をいかに解消するかにあった。
これに対してランゲ開発陣が導き出した答えが、特許技術のアイソレーター機構である。
一般的なラトラパンテ機構では、ラトラパンテ針が停止しかつクロノグラフ針が動いている状態では、ラトラパンテ針のみレバーによって押さえている。しかしこの状態では、常に摩擦が生じてしまうためために、多くのエネルギーが消費されてしまう。これに対してアイソレーター機構は、レバー押さえるのではなく、パーツを切り離す特殊な構造によって一切の摩擦を回避するという仕組みだ。Cal.L132.1では、センターホイールとミニッツホイールにアイソレーター機構を装備し、消費エネルギーを抑えているのだ。
また、メリットはこれだけでなく、従来のスプリットセコンドであれば避けることのできない振幅の低下をも避けられる。これにより、歩度の安定性を保ち、より正確なラップタイム計測を可能にしているのである。
文◎堀内大輔
2021.05.28 UPDATE