A.ランゲ&ゾーネの新時代を象徴するニューファミリー“オデュッセウス”
A.LANGE & SÖHNE
A.ランゲ&ゾーネ
去る2019年10月24日。新生A.ランゲ&ゾーネがランゲ1を含む、第1号コレクションを発表した記念すべき日に、ブランド史上かつてないコンセプトの新作“オデュッセウス”発表の報がもたらされた。
特筆は同社のレギュラーモデルで初となるステレンススチール仕様という点である。
正直なところ、これについては愛好家から様々な意見が挙がっている。おおむね肯定的だが、これまで一貫して外装に貴金属素材を用いたハイエンドなドレス系ウオッチを展開してきたブランドだけに、なかには否定的な意見があることも確かだ。
ただ発表以降、ブティックには「実物を見たい」という問い合わせが多数寄せられていると言うから、気になっている人が多いことは間違いない。
そこで、今回からこの話題作“オデュッセウス”はいったいどういったモデルなのか。様々な視点からその真価を探っていきたい。
【Background】
まずは本作を知るうえで重要となるコンセプトや開発の背景を考察していきたい。
一見してわかるとおり、本作は頑強なステンレススチール製ケースをもち、アクティブなシーンにも使える性能とエレガントな雰囲気を併せもつ腕時計として開発された。
ランゲ1、サクソニア、1815、リヒャルト・ランゲおよびツァイトヴェルクに続く、六つ目のプロダクトファミリーである。
オデュッセウスをジャンルに当てはめるとするなら、近年人気を集める“ラグジュアリースポーツ”に分類できるが、本作がトレンドを追従して開発されたと考えるのは早計であろう。
根拠のひとつが搭載するムーヴメントのキャリバーナンバーである。
と言うのも、同社では開発に着手した年をナンバーの頭に用いている(必ずしもではない)ことが多く、これに当てはめると、本作に搭載されるキャリバーL155.1の開発着手は2015年となるからだ。
そもそも同社のプロダクト開発期間はいずれも数年掛かりであり、直近の流行の影響など受けようもない。実際、本作は構想から完成までに10年以上の歳月を要していると言う。
ご存じの人も多いと思うが、A.ランゲ&ゾーネは再興以降、グラスヒュッテの伝統を継承した高品質なドレス系ウオッチを一貫して製造してきたブランドである。
そんなブランドイメージを定着させてきたからこそ、スチールモデルの展開には慎重にならざるを得なかったのであろう。開発にあたってあらゆる点を吟味し、試行錯誤を繰り返したであろうことは想像に難しくなく、10年という歳月は決して大げさではないはずだ。
実は、そんな開発までの長く困難な道のりはネーミングでも示されている。
“オデュッセウス”とは、トロイの木馬を立案し、これによって10年間続いたトロイア戦争に終止符を打ったギリシャ神話に登場する英雄の名だ。しかし、終戦後、故郷まで帰還の旅は戦争以上に長く困難なものであった。本作は、まさにこれになぞらえたというわけである。
また本作において“レギュラーモデルとしては初のステンレスモデル”という表現がなされているが、この点についても少し触れておきたい。
過去にもごく限られたモデルでスチールケースを採用しており、直近のスチールモデルは、2018年5月に行われたフィリップスオークションにチャリティーモデルとして出品するため、特別に1本だけ製作された1815“ウォルター・ランゲへのオマージュ”である。
世界中の愛好家から注目を集めたオークションは大いに盛り上がり、結果、落札価格はA.ランゲ&ゾーネの腕時計で過去最高値となる85万2500スイスフラン(バイヤースプレミアム込み)を記録。当時のレートで日本円に換算すると9000万円以上(レギュラー展開されているゴールドモデルの15倍以上)という高値が付いた。
実はこのモデルがスチールモデルに対するユーザーの反応を見る試金石でもあったと考えるのは筆者だけであろうか。
もちろん1本のみという希少性もあってのこれほどの注目を集めたのだが、この成功がレギュラー展開を後押しした要因のひとつであったことは間違いないだろう。
確かにオデッセウスは、一見して型破りだ。
だが、様々な視点から仔細に見ると、その実、随所に同社らしいこだわりが見て取れる。
次回からは、この点に注目してオデュッセウスの真価を探っていきたい。
次回に続く
INFORMATION
2019.11.29 UPDATE