【チュチマ グラスヒュッテ】の本国工房に行ってきた!
TUTIMA GLASHÜTTE
チュチマ・グラスヒュッテ
いまも受け継がれる創業者の精神
観光地としても有名なドイツ・ドレスデンから車で40分ほど移動したところにある山間の小さな街、グラスヒュッテ。
ドイツ時計の聖地として知られるこの場所に、2008年に帰還を果たしマニュファクチュールとして再出発したのがチュチマ グラスヒュッテだ。
現在、同社の製造拠点となっているこのグラスヒュッテ工房に編集部が潜入。普段見ることができない工房内の風景など取材レポートをお届けする。
1920年代にグラスヒュッテの時計産業を牽引した人物が、時計会社UFAG(グラスヒュッター ウーレンファブリーク)とそのムーヴメント製造を担ったUROFA(ウーレン ローヴェルケ ファブリーク)の社長を務めたエルンスト・クルツ博士である。
チュチマとは、もともとこのメーカーで製造されたトップグレードの時計に与えられた名であった。
しかし、第2次世界大戦で会社が解体。クルツ博士は東ドイツに亡命し、そこで新たな時計会社を設立したが、その会社も10年ほどで倒産してしまった。
そこでクルツ博士の遺産を残すべく、かつて博士のもとで働いていたデレケイト氏(現オーナー)がブランドとして再興したのが、現在のチュチマである。
以降、東ドイツを拠点に展開していたチュチマだったが、ルーツであるグラスヒュッテに戻ることは長年の悲願であった。
「1960年当時、“チュチマ”の名を残すため、ガンダーケッセ(ブレーメン近郊の街)で時計会社を設立し、ブランドとして再興したのが、かつてUFAGとUROFAで指揮を採ったクルツ博士で、その彼のもとで働いていたのが私の父です。チュチマのルーツとなるグラスヒュッテに戻ることは、我々ファミリーにとって長年の夢であり、90年の東西ドイツ統一以来、ずっとチャンスをうかがっていました。そしてようやく2008年に念願が叶ったのです」(マネージングディレクター/ヨーク・デレケイト氏)
同社ではグラスヒュッテへの帰還を機に製造体制も一新。以降、チュチマの時計には、文字盤に“グラスヒュッテ”の地名が入った。
さらにかつてのようにマニュファクチュールとして再出発するため、ムーヴメント製造にも乗り出したのである。
こうして2011年に完成させた初作が、クルツ博士へ敬意を表し“オマージュ”と名付けられたミニッツリピーターモデルである。
その後、13年には3針モデルの“パトリア”を、そして17年にはかつてUROFAが手がけた傑作キャリバーの基本構造を再現したクロノグラフモデル“テンポストップ”(限定生産)をリリースした。
チュチマ グラスヒュッテでは現在、年間5000本の時計を製造している。
その多くは同社のアイコンであるミリタリークロノグラフのDNAを受け継いだ、堅牢で実用性の高いコレクションだ。そしてこれらは高い品質をキープしつつも大量生産することで価格を抑えた、リーズナブルなラインである。
他方、先のパトリアは高級ラインとして展開されている。このコレクションの製造拠点こそが、今回訪れた工房なのである。
同工房ではムーヴメントの設計にはじまり、パーツ製作、仕上げ、組み立てまで一貫して行い、高いクオリティを追求している。
設計から完成までの工程をひと通り見せていただいたが、なかでも筆者が驚かされたのは組み立て工程だ。
「自社製ムーヴメントは、一度組み立てて分解し、再度組み直しエラーがないかを確認する、いわゆる“2度組み”を実践しています。またパーツの一部にはブラックポリッシュを施すなど、ムーヴメントの美観にもこだわっています」(工房責任者/アレクサンダー・フィリップ氏)
2度組みと言えばA.ランゲ&ゾーネが有名だが、手間も時間も単純に倍掛かるため、実践している時計メーカーは世界でも数少ない。これをチュチマで実践しているという事実は、これまでほとんど知られていなかっただろう。
その理由についてフィリップ氏は「どんな複雑機構であっても、“最上級”を意味するラテン語を由来とする“チュチマ”の名を冠する以上、完璧な動作を保証することは絶対ですから(笑)」と語る。
なるほど、チュチマ グラスヒュッテではいまなおブランド名にふさわしいモノ作りを徹底し続けているというわけだ。
グラスヒュッテの時計メーカーのなかでは、まだ小規模ながらもUFAG/UROFA時代からの確固たるモノ作り精神を受け継ぎ、高品質なモデルを展開するチュチマ。いまグラスヒュッテで最も注目すべきメーカーのひとつであろう。
文◎堀内大輔(編集部)/写真◎神戸シュン(工房撮影)
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