航空時計の標準規格TESTAF
より堅牢に、より機能的に
進化したパイロットウオッチ
計時機器の本質を追求し
独自に進化した意匠と機能
機能や実用製にこだわる国民性もあり、第1次大戦期からすでに厳密な規格のもとで製造が行われてきたドイツのフリーガーウオッチ(パイロットウオッチ)。航空機による作戦を重視したドイツ軍にとって時計は作戦遂行に欠かすことのできない最重要装備品であり、1940年に空軍服務規則に基づいてタイプA、その後継機として42年に分表示を際立たせたタイプBが制定されている。戦後は東西ドイツに分断されたこともあり軍用の規定が更新されることはなかったが、現在もフリーガーウオッチをベースにしたモデルは数多くあり、ドイツ時計を語るうえでいかに重要な存在であるかが実感できるはずだ。
様々なアレンジを加えながら現代も継承されているフリーガーウオッチだが、近年注目なのが、戦前の軍用規格以降、過去数十年で初めてパイロットウオッチの標準規格“DIN8330”が制定されたという点。契機となったのは、ミッションウオッチの製作で知られるジンが主導となり、アーヘン応用科学大学航空宇宙技術学部と共同で開発したパイロットウオッチの標準規格“TESTAF(テスタフ)”だ。
テスタフの開発チームはパイロットへの綿密なヒアリングをベースにして現代のパイロットウオッチ二必要とされる要件を策定。その後、数年の歳月をかけてさらに検証を行い、2012年に“TESTAF”を発表する。このTESTAFを基に、再びジンを中心にストーヴァ、グラスヒュッテ・オリジナル、アーヘン応用科学大学、ルフトハンザ・カーゴ社、船舶に関する専門機関DNV GL(前ゲルマニアロイド)など、複数の機関が協力することで16年に発効されたのが、ドイツ工業規格に新たに加わったDIN8330だ。
従来のパイロットウオッチでは飛行中の視認性、安全性が前提となっていたが、現代においてパイロットウオッチを飛行中にナビゲーションとして使用する機会はほぼない。そのため、DIN8330ではコクピットが壊れた極限の状態で、壊れた計時機器の代替として時計を使用することが想定されている。過酷な状況での使用を想定した結果、その基準は視認性や精度はもちろん、あらゆる面でより厳しいものとなった。
例えば気圧テスト。単純な低圧力だけでなく、数千回サイクルで異なる圧力差を加えるテストを実施し、高度2万メートル以上で加圧と減圧が繰り返される緊急時の状況にも耐えるスペックが検査される。マイナス15℃〜プラス55℃という通常では考えられない温度差で行われる精度検査、航空機内にある燃料や潤滑剤への耐性テスト、急激な上昇と下降を想定した最大6Gの重力負荷テストなども同様の理由によるものだ。そのほかにも、振動、衝撃、遠心力、温度変化への耐性、磁気干渉など、パイロットウオッチに必要な機能と技術的特徴が、明確に数値を基に認証されているのだ。
こうしたパイロットウオッチに必要とされる機能性を数値化し、厳格に第三者機関で検証する姿勢は、実用性を重んじ、妥協を許さない物作りを貫くドイツ時計の哲学を体現するものといえるだろう。DIN8330で求められる機能やスペックが実際に日常生活のなかで求められることはまずないが、規格に準拠した時計が備える機能的で見やすいデザイン、堅牢な作り、高度なスペックには、ドイツ時計好きの琴線に触れる魅力が凝縮されているはずだ。
DIN8330で実施される厳格なテストを抜粋
独自のコンセプトを生かした
フリーガーウオッチにも注目
DIN8330との関連はないが、伝説的パイロット、ヘルムート・ジンが後年に創設したギナーン、第2次大戦期から軍用クロノグラフを製造した歴史を持つチュチマなど、パイロットウオッチに一家言を持つブランドが独自のノウハウで製作したフリーガーウオッチも面白い。パイロットウオッチをデザインのひとつと捉える傾向の強いスイスブランドに対して、あくまでも実用をベースに時計を製作している点にも実を重んじるドイツ時計らしい魅力が光る。
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