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航空時計の標準規格TESTAF

SINN ジン

SINN ジン 103.TI.UTC.IFR

ハンブルクにある認証機関SEACOTEC社によりテスト・認定されたDIN8330に準拠する高性能クロノグラフ。コクピット内の時間計測機器が故障またはその疑いがあるときに代替できるように、航行中の物理的負荷に悪影響を受けない耐久性に加え、暗視装置との互換性、文字やマーキングと背景の明度の比率、緊急色と混同する可能性のある赤を使用しないなど、視認性に関してこれまでにない厳密な基準をクリアしている。
■Ref.103.TI.UTC.IFR。TI(41mm径)。20気圧防水。自動巻き(Cal.ETA7750)。55万800円/問い合わせ:ホッタ TEL.03-6226-4715 sinn-japan.jp

 
 

より堅牢に、より機能的に
進化したパイロットウオッチ


 

計時機器の本質を追求し
独自に進化した意匠と機能

 

 機能や実用製にこだわる国民性もあり、第1次大戦期からすでに厳密な規格のもとで製造が行われてきたドイツのフリーガーウオッチ(パイロットウオッチ)。航空機による作戦を重視したドイツ軍にとって時計は作戦遂行に欠かすことのできない最重要装備品であり、1940年に空軍服務規則に基づいてタイプA、その後継機として42年に分表示を際立たせたタイプBが制定されている。戦後は東西ドイツに分断されたこともあり軍用の規定が更新されることはなかったが、現在もフリーガーウオッチをベースにしたモデルは数多くあり、ドイツ時計を語るうえでいかに重要な存在であるかが実感できるはずだ。
 
 様々なアレンジを加えながら現代も継承されているフリーガーウオッチだが、近年注目なのが、戦前の軍用規格以降、過去数十年で初めてパイロットウオッチの標準規格“DIN8330”が制定されたという点。契機となったのは、ミッションウオッチの製作で知られるジンが主導となり、アーヘン応用科学大学航空宇宙技術学部と共同で開発したパイロットウオッチの標準規格“TESTAF(テスタフ)”だ。

DIN8330の技術規格に準拠したテストにクリアしたことを示す証明書。DIN8330にクリアしたモデルには、この証明書に加えて、文字盤に飛行機の機体をモチーフにしたDIN8330のロゴをプリントすることが許される

 

 テスタフの開発チームはパイロットへの綿密なヒアリングをベースにして現代のパイロットウオッチ二必要とされる要件を策定。その後、数年の歳月をかけてさらに検証を行い、2012年に“TESTAF”を発表する。このTESTAFを基に、再びジンを中心にストーヴァ、グラスヒュッテ・オリジナル、アーヘン応用科学大学、ルフトハンザ・カーゴ社、船舶に関する専門機関DNV GL(前ゲルマニアロイド)など、複数の機関が協力することで16年に発効されたのが、ドイツ工業規格に新たに加わったDIN8330だ。
 
 従来のパイロットウオッチでは飛行中の視認性、安全性が前提となっていたが、現代においてパイロットウオッチを飛行中にナビゲーションとして使用する機会はほぼない。そのため、DIN8330ではコクピットが壊れた極限の状態で、壊れた計時機器の代替として時計を使用することが想定されている。過酷な状況での使用を想定した結果、その基準は視認性や精度はもちろん、あらゆる面でより厳しいものとなった。
 
 例えば気圧テスト。単純な低圧力だけでなく、数千回サイクルで異なる圧力差を加えるテストを実施し、高度2万メートル以上で加圧と減圧が繰り返される緊急時の状況にも耐えるスペックが検査される。マイナス15℃〜プラス55℃という通常では考えられない温度差で行われる精度検査、航空機内にある燃料や潤滑剤への耐性テスト、急激な上昇と下降を想定した最大6Gの重力負荷テストなども同様の理由によるものだ。そのほかにも、振動、衝撃、遠心力、温度変化への耐性、磁気干渉など、パイロットウオッチに必要な機能と技術的特徴が、明確に数値を基に認証されているのだ。
 
 こうしたパイロットウオッチに必要とされる機能性を数値化し、厳格に第三者機関で検証する姿勢は、実用性を重んじ、妥協を許さない物作りを貫くドイツ時計の哲学を体現するものといえるだろう。DIN8330で求められる機能やスペックが実際に日常生活のなかで求められることはまずないが、規格に準拠した時計が備える機能的で見やすいデザイン、堅牢な作り、高度なスペックには、ドイツ時計好きの琴線に触れる魅力が凝縮されているはずだ。

 
 

DIN8330で実施される厳格なテストを抜粋


遠心分離機での重力負荷テスト
飛行の際に生じる重力加速度に耐える強度を備えているかを調べる遠心分離機での重力負荷テスト。複数の姿勢で最大6G(自重の6倍の負荷)の重力加速度を加えて検査が行われる
真空デシケート内での差圧テスト
飛行中にトラブルが生じて急激に加減を繰り返す状況にも対応できるように、高度2万メートルに相当する気圧を始め、真空デシケート内で数千回に及ぶ差圧テストが実施される

消磁した時計を磁場にさらし後に磁気の影響を受けていないか試験装置で磁気特性の解析

DIN8330ではコクピット内で計器から磁気の影響を受けずに正確な時間を表示することに加え、時計そのものが磁性を帯びて、コンパスなどの計器に干渉をおこさないことが定められている。テストでは消磁した時計を均一な磁場にさらし(写真左)、その後に磁気の影響を受けていないか試験装置で磁気特性の解析(写真右)を行う
遠心分離機での重力負荷テスト

一定の距離から特殊なハンマーで時計に衝撃を与えて、衝撃、衝突耐性を調べるテストユニット

ストラップが外れずに確実装着されているかをテストする装置。ダイバーズウオッチの潜水用安全基準規格DIN8 306に準じ、損傷を受けることなく、少なくとも200n(約20kgの重さ)の張力に耐えることが求められる

STOWA
ストーヴァ
フリーガー プロフェッショナル

 
第2次世界大戦時にドイツ空軍に軍用パイロットウオッチを納入していた歴史を持つストーヴァ。このモデルはDIN8330の厳格な要求事項に準拠する高度な機能性に加え、初期アップル社の製品を手掛けた世界的デザイナー、ハルトムット・エスリンガー氏による機能と革新性を両立したデザインが魅力。90度の角度で二つの正弦曲線を配置したベゼルは、高度な操作性と前衛的なスタイリングを備えている。
■TI(43mm径)。20気圧防水。自動巻き(Cal.ETA2824-2)。34万5600円/問い合わせ:TiCTAC恵比寿アトレ店 TEL.03-5475-8413 www.neuve-a.net/TiCTAC

 
 

独自のコンセプトを生かした
フリーガーウオッチにも注目

 

 DIN8330との関連はないが、伝説的パイロット、ヘルムート・ジンが後年に創設したギナーン、第2次大戦期から軍用クロノグラフを製造した歴史を持つチュチマなど、パイロットウオッチに一家言を持つブランドが独自のノウハウで製作したフリーガーウオッチも面白い。パイロットウオッチをデザインのひとつと捉える傾向の強いスイスブランドに対して、あくまでも実用をベースに時計を製作している点にも実を重んじるドイツ時計らしい魅力が光る。

ギナーン
SFLクロノグラフ

 
ドイツ空軍の伝説的パイロット、ヘルムート・ジンの監修のもと、プロ仕様モデルを製作する独立系ブランド。新作では操作性を考慮したグリップ感の高い自社製SFLベゼルを採用。抜群の視認性と操作性を実現している。■Ref.SFL Chr ono。SS(40.5mm径)。20気圧防水。自動巻き(Cal.ETA7750)。64万5840円/問い合わせ:ギナーンジャパン TEL.025-772-3477 www.guinand-watch.jp

チュチマ
M2 クロノグラフ

 
1980年代にNATO加盟国の空軍に制式採用されたミリタリークロノグラフTをベースに製作。不測の事態に怪我をしないように考慮された突起のないチタンケースなど、オリジナルモデルの意匠を継承しつつスペックがさらに強化されている。■Ref.6450-03。TI(46mm径)。30気圧防水。自動巻き(Cal.T521)。73万4400円/問い合わせ:ダイヤモンド TEL.06-6262-0061

2018.04.01 UPDATE

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